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【Will&Nexus 42/49】「あの人じゃないとわからない」を、なくす技術。

2026 2/19
Will&Nexus
2026-02-182026-02-19
Keisuke Ishino
目次

「あの人じゃないとわからない」

組織の中で、こういう状態を見たことはないだろうか。

「この案件のことは、田中さんに聞かないとわからない」 「あの判断基準は、鈴木部長の頭の中にしかない」 「このプロセス、誰も全体を把握していない」

特定の人の頭の中に、その組織にとって重要な「知恵」が閉じ込められている状態。

その人がいるうちは問題ない。でも、異動、退職、病気で不在になった瞬間、その知恵は消える。

これは、記事41[※1]で書いた「卒業」の前提が整っていない状態だ[※1]。卒業するためには、自分の頭の中にある知恵を、組織が使える形に変換しておく必要がある。


知恵は三層ある

自分の頭の中にある知恵を整理すると、だいたい三つの層に分かれる。

第一層:手順(How)

「このレポートは、こういう手順で作る」「このツールは、こう操作する」。

これは最も言語化しやすい。マニュアルにできる。ツールで代替できることもある。

第二層:判断基準(When / Why)

「この場面では、Aを選ぶ。なぜなら、過去にBを選んで失敗した経験があるから」「このクライアントには、こういうアプローチが有効。なぜなら、こういう価値観を持っているから」。

手順よりも言語化が難しい。でも、ケーススタディとして記録できる。「こういう状況では、こう判断する。理由はこれ」という形で残せる。

第三層:問い(What to ask)

「そもそも、何を問うべきか」。

これが最も難しく、そして最も価値がある。

「新しいプロジェクトが始まったとき、まず何を確認すべきか」「トラブルが起きたとき、最初にどこを見るべきか」。

手順や判断基準は状況によって変わる。でも、正しい問いを立てる力は、どんな状況でも通用する。


「問い」をアルゴリズム化する

このシリーズでは、さまざまな「問い」を紹介してきた。

「構造のどこにバグがあるか?」[※2] 「これは定数か、変数か?」[※3] 「センターピンはどこか?」[※4] 「相手が一番怖いことは何か?」[※5]

これらの問いは、僕の個人的な経験から蒸留されたものだ。でも、問いそのものは、僕がいなくても誰でも使える。

問いをアルゴリズム(手順)化するとは、「この場面ではこの問いを立てる」というパターンを整理して、共有できる形にすることだ。

「チームで問題が起きたとき → まず『構造のどこにバグがあるか?』と問う」 「対立が起きたとき → まず『両者のWillは何か?それぞれの欲しいものは本当に同じか?』と問う」

問いが共有されれば、自分がいなくても「正しい問い」がチームの中で回り始める。


知恵を出し惜しみしない

「自分の知恵を全部渡したら、自分の存在価値がなくなるのでは」。

記事41[※1]でも触れた恐怖だ。

でも、考えてみてほしい。

知恵を渡すと、自分の価値は減るか? むしろ、増えるのではないか。

「あの人がいたから、チームが自律できるようになった」。これは、最高の信頼だ[※6]。「自分の知恵を惜しみなく共有する人だ」という評価は、次の面白い仕事を呼び込む。

知恵を抱え込む人は、今の場所でしか価値がない。知恵を共有する人は、どこに行っても価値がある。


形骸化させない

ただし、知恵を言語化して渡す際の注意点がある。

マニュアル化が目的化して、形骸化しないことだ。

記事08[※7]で書いた通り[※7]、手段が目的化する罠はどこにでもある。「マニュアルを作ること」が目的になると、誰も読まないマニュアルが量産される。

大事なのは、マニュアルではなく「使える形」にすることだ。

長いドキュメントより、短いチェックリスト。テキストより、実際の判断場面での会話。教科書より、ケーススタディ。

自分がいなくても「正しい問い」が回る状態を作る。 それが、知の結晶化のゴールだ。


「自分のスタイル」を渡した日

僕自身、知の結晶化をやった経験がある。

研修の講師をしていた時期がある。最初は試行錯誤の連続だったが、しばらくして自分なりのスタイルが固まった[※8]。受講者の反応も良く、リピートの依頼も増えた。

でも、自分一人で回していては限界がある。自分が体調を崩したら、スケジュールが埋まったら、研修は止まる。

だから、自分がやっていたことを分解して渡すことにした。研修の構成の考え方。受講者のタイプ別の対応パターン。うまくいった場面の具体例と、なぜうまくいったかの分析。単なるスライドの引き継ぎではなく、「なぜこの場面でこうするか」という判断基準まで含めて言語化した。

最初は「自分のスタイルを渡したら、自分の価値がなくなるんじゃないか」という不安もあった。でも実際には、渡したことで自分は次のことに時間を使えるようになった。そして、渡された側が自分なりの工夫を加えて、僕とは違う良さを持つ講師になっていった。

知恵は、抱え込んでいる限り「属人的な強み」にしかならない。渡した瞬間、「組織の資産」に変わる。


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この記事を書いた人

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石野 敬祐(Keisuke Ishino)
経営と人事の「かかりつけ医」/ Will&Nexus 代表

外資系コンサルからキャリアをスタートし、IT・業務改革コンサル、人事・組織コンサル、事業会社の人事責任者を経て独立。組織の問題のほとんどは領域の境界線にある——その確信から、経営・人事・業務・ITを横断しながら「センターピン(本当に倒すべき一手)」を見極める仕事をしている。

視界を失いかけた経験、長い介護の日々、自分のとらわれへの気づき——そうした経験が、見立ての精度と、誠実に関わるという姿勢をつくってきた。

趣味は一つに絞れない。歌、写真、ゲーム、麻雀、ボクササイズ……その時々の興味に引っ張られて、何がメインかは常に変わる。飽き性というより、好奇心が次の扉を先に開けてしまうタイプらしい。どんな領域でも「なぜこれはこう機能するのか」と考えてしまう癖は、仕事と地続きだと思っている。

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