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【Will&Nexus 08/49】その「1on1」、何のためにやっていますか。

2026 2/19
Will&Nexus
2026-02-182026-02-19
Keisuke Ishino
目次

「ジョブ型って、入れた方がいいですかね」

「ジョブ型って、やっぱり入れた方がいいんですかね」 「1on1ミーティングって、効果あるんですか」 「OKRとKPI、どっちがいいですか」

組織の課題を相談されるとき、こういう聞かれ方をすることがよくある。

気持ちはわかる。流行りの手法には、どこかに「これさえ入れれば解決する」という魅力がある。どこでもドアのように、一発で目的地に連れて行ってくれる仕組み。それが欲しい。

でも、こうした問いには共通する問題がある。

「どこに行きたいのか」が定義されていない。

どこでもドアは便利だ。でも、行き先を設定しなければ、ドアを開けてもどこにも着かない。目的地のない移動手段は、ただの混乱だ。


手段と目的の逆転

制度やツールは、あくまで「手段」だ。

1on1は、上司と部下のコミュニケーションを改善するための手段。OKRは、組織の目標を整合させるための手段。ジョブ型は、役割と報酬を明確化するための手段。

手段が機能するためには、「何のためにやるのか」という目的が先にある必要がある。

ところが、多くの組織で起きているのは、手段の導入そのものが目的化している状態だ。

「1on1を導入します」。なぜ?「他社もやっているから」。何を改善したいの?「……とにかく、コミュニケーションが良くなればいいなと」。

この「とにかく」が危険だ。

目的が曖昧なまま手段を導入すると、手段が一人歩きする。1on1の「回数」が目標になる。OKRの「設定の仕方」がトレーニングされる。ジョブ型の「制度設計」にコンサルフィーが投下される。

でも、肝心の「何のためにやっているのか」は、いつの間にか誰も語らなくなる。


「型」を入れれば問題が解決する、という幻想

もう少し踏み込もう。

「ジョブ型を入れれば、評価が公平になる」 「1on1をやれば、離職が減る」 「OKRを入れれば、全員が同じ方向を向く」

こうした期待は、半分は正しい。半分は間違っている。

正しいのは、正しく運用すれば、そうした効果が出る可能性があるということ。

間違っているのは、入れるだけでそうなるという前提だ。

制度やツールは「型」だ。型の中に何を流し込むかで、出来上がるものはまったく変わる。同じ型を使っても、流し込むものが違えば、別のものができる。

1on1の型を入れても、上司が部下の話を聞かなければ、ただの報告会になる。OKRの型を入れても、目標の設定方法が機械的なら、ただの管理ツールになる。

型は、目的と運用によって命が吹き込まれる。 型そのものに魔法はない。


目的地を忘れた仕組みが人を縛る

さらに厄介なのは、目的なき仕組みが、善意の個人を縛り付けることだ。

「なんのためにやっているかわからないけど、ルールだからやる」。

たとえば、毎週の1on1。上司も部下も、なぜやっているかわからない。でも「制度だから」やる。30分間、お互いに何を話していいかわからないまま座っている。終わったあと、双方が「時間の無駄だった」と思う。でもやめられない。制度だから。

こうなると、制度は「人を支える構造」ではなく「人を拘束する構造」に変わる。

設計者にとって最も重要な問いは、「この仕組みは何のために存在しているか」だ[※1]。その答えが誰にも言えないなら、仕組みそのものを疑う必要がある。


「盛り上げること」が目的になっていく

目の前で、手段の目的化が起きていくのを見たことがある。

ある会社で、生成AIを業務に活用しようという全社的な取り組みが始まった。有志が手を挙げ、自分の業務を効率化するアイデアを試し、成果を発表するコンテスト形式だ。優勝者にはプレゼントもある。狙い自体は悪くなかった。新しい技術に触れるきっかけを作ること。現場発のアイデアを拾い上げること。

でも、途中から空気が変わっていった。

担当者が「盛り上げよう」として、参加者に意気込み動画を撮らせ、全体会議で流した。エンタメ要素を加えて注目を集めようとした。定期的に進捗確認の声がけがあり、業務に追われてなかなか手がつかない社員にとっては、プレッシャーになっていた。

有志参加であり、業務時間内にやっていいという立てつけではあった。でも、盛り上げのための動画撮影やインタビューに時間を割くことが、本来の目的——業務の効率化——を後押ししていたかというと、疑問が残った。

「活用を広げる」が目的だったはずが、「コンテストを盛り上げる」にすり替わっていた。

これは悪意のない話だ。担当者は本気で盛り上げようとしていた。でも、「盛り上げること」と「成果を出すこと」は別の目的だ。手段が走り出すと、手段自体の成功が目的に見え始める。気づいたときには、本来の目的はどこかに行ってしまっている。


「何のために」を問い直す

では、どうすればいいか。

シンプルだが強力な問いが一つある。

「もしこの仕組みをやめたら、何が困るか?」

この問いに対して、具体的な「困ること」が出てこないなら、その仕組みは目的を失っている可能性が高い。

「1on1をやめたら、何が困る?」「部下の状態がわからなくなる」。ならば、1on1の目的は「部下の状態を把握すること」だ。その目的に合った運用をしているか、確認すればいい。

「1on1をやめたら、何が困る?」「……特に何も困らないかも」。ならば、今の形の1on1は不要だ。別のやり方を考えた方がいい。

目的を問い直すことは、仕組みを否定することではない。仕組みに命を吹き込み直すことだ。


目的地を先に決める

新しい仕組みを導入するときも、既存の仕組みを見直すときも、やるべきことは同じだ。

目的地を先に決める。

「この組織で、人がどんな状態にあれば”いい状態”と言えるか?」 「そのために今足りていないものは何か?」 「その足りていないものを補う手段として、何が最も合理的か?」

この順番で考えれば、手段の選択は自然と絞られる。ジョブ型が最適な場合もあれば、そうでない場合もある。1on1が有効な場合もあれば、別のやり方が合う場合もある。

手段は、目的地に合わせて選ぶものだ。 手段が先に来て、目的を後付けするのは、設計の順序が逆だ。

このシリーズの言葉で言えば、目的とは「ハッピー」だ[※2]。組織にいる人がハッピーであるために、どんな構造が必要か。その問いから始めれば、手段に振り回されることは少なくなる。


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この記事を書いた人

Keisuke Ishinoのアバター Keisuke Ishino

石野 敬祐(Keisuke Ishino)
経営と人事の「かかりつけ医」/ Will&Nexus 代表

外資系コンサルからキャリアをスタートし、IT・業務改革コンサル、人事・組織コンサル、事業会社の人事責任者を経て独立。組織の問題のほとんどは領域の境界線にある——その確信から、経営・人事・業務・ITを横断しながら「センターピン(本当に倒すべき一手)」を見極める仕事をしている。

視界を失いかけた経験、長い介護の日々、自分のとらわれへの気づき——そうした経験が、見立ての精度と、誠実に関わるという姿勢をつくってきた。

趣味は一つに絞れない。歌、写真、ゲーム、麻雀、ボクササイズ……その時々の興味に引っ張られて、何がメインかは常に変わる。飽き性というより、好奇心が次の扉を先に開けてしまうタイプらしい。どんな領域でも「なぜこれはこう機能するのか」と考えてしまう癖は、仕事と地続きだと思っている。

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