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【Will&Nexus 07/49】経営と現場の「景色」は、なぜいつもズレるのか。

2026 2/19
Will&Nexus
2026-02-182026-02-19
Keisuke Ishino
目次

同じ会議室で、違う景色を見ている

経営が「来期の売上を20%伸ばす」と号令をかける。現場は「人が足りない」「仕組みが整っていない」と言う。経営は「甘いことを言うな」と返す。現場は「現実を見てほしい」と思う。

同じ会議室に座って、同じスライドを見ているのに、まるで話が噛み合わない。

売上を伸ばさなければ会社は続かない。それは事実だ。一方で、人も仕組みも足りていない。それも事実だ。どちらも正しいのに、どちらも相手を「わかっていない」と感じている。

この噛み合わなさの正体は、実はシンプルだ。

時間軸が違う。

経営は1年単位で見ている。来期の数字。四半期の目標。株主への報告。現場は、もっと長い時間軸で見ている。「この仕組みを今作っておかないと、3年後に破綻する」「今育てている人材が戦力になるのは2年後だ」。

同じ会社の中で、同じ事業を見ているのに、時間軸の尺度が違うから、見えている景色が全然違う。


時間軸のズレは「構造」の問題

「経営は短期的だ」「現場は危機感がない」。

こうした批判は、人の性格の問題として語られやすい。でも、これも構造の問題だ。

経営が短期を見るのは、短期の成果で評価されるからだ。株主、取締役会、投資家。彼らは四半期や年度単位で数字を求める。その構造の中にいれば、短期を見るのは当然だ。

現場が長期を見るのは、日々の仕事の中で「今これをやらないと後で困る」ことが肌感覚でわかっているからだ。新人を育てるには時間がかかる。システムを変えるにも時間がかかる。その現実の中にいれば、長期を見るのは当然だ。

どちらも、自分の置かれた構造の中で、合理的に判断している。

問題は人ではない。それぞれの構造が要求する時間軸が、噛み合っていないことが問題なのだ。


「今」の正解が「未来」を殺す

時間軸のズレが最も危険なのは、「今の正解」が「未来の不正解」になる場合だ。

わかりやすい例がある。

人手が足りない。すぐに成果が欲しい。だから、即戦力を中途採用する。これは「今」の正解だ。目の前の問題は解決する。

でも、その結果、新人を育てる余裕がさらになくなる。育成の仕組みが後回しにされる。3年後、即戦力として採用した人が転職し、育った新人がいない。人手不足は「今」よりもっとひどくなっている。

「今」を手当てするたびに、「未来」への投資が減る。このループが続くと、いつか組織は限界を迎える。

反対のパターンもある。

「未来のために」と言って、今の数字を犠牲にし続ける。理想は正しい。でも、今の数字がなければ、未来にたどり着く前に会社が傾く。

「今」と「未来」は、対立しているように見えて、実は設計次第で両立できることが多い[※1]。

でも、それに気づくためには、「今」と「未来」の両方を同時に視野に入れる必要がある。時間軸の尺度が一つしかないと、もう片方が見えない。


時間軸を「共有する」という設計

では、どうすればいいのか。

答えは、「どちらの時間軸が正しいか」を決めることではない。両方の時間軸を、同じテーブルの上に並べることだ。

たとえば、こんな問いを立ててみる。

「この施策は、今やることで、3年後の状態をどう変えるか?」

この問いには、短期(今)と長期(3年後)の両方が入っている。今の打ち手が未来にどう影響するかを、一緒に考える。

あるいはこう聞く。

「3年後に理想的な状態にするために、今すぐ始めるべきことは何か?」

この問いは、長期の理想から逆算して、今の一手を導き出す。未来の話だけで終わらず、今日のアクションに落とし込む。

大事なのは、短期と長期を対立させないことだ。「来期の数字」か「3年後の育成」かではなく、「来期の数字を出しながら、3年後の育成も動かす方法は何か」と考える。

記事14[※1]で書いたオレンジの話と同じだ。Aさんは果実が欲しい。Bさんは皮が欲しい。半分に切る必要はない。


「いつまでに」を定義する

もう一つ、実務的に大事なことがある。

組織の中で「やるべきだ」と言われることは、たいてい正しい。採用を強化すべき。育成を仕組み化すべき。評価制度を見直すべき。

でも、「いつまでに」が定義されていないことが、驚くほど多い。

「いつかやりたい」は、戦略ではない。願望だ。

「3ヶ月後にこの状態にする」「1年後にこの指標を達成する」。時間軸を明確にした瞬間に、やるべきことの優先順位が変わる。リソースの配分が変わる。会話の質が変わる。

時間軸の不在は、曖昧さを生む。曖昧さは、摩擦を生む[※2]。

「何を」だけでなく「いつまでに」を定義すること。 それだけで、チームの尺度が揃い始める。


自分自身の時間軸を診る

最後に、組織の話から少し離れて、個人の話をしたい。

自分のキャリアについても、時間軸のズレは起きている。

「今の仕事で成果を出さなきゃ」という短期の視点と、「5年後にどうなりたいか」という長期の視点。この二つが噛み合っていないとき、人は漠然とした焦りを感じる。

「今の仕事は意味があるのか」「でも辞めるのは怖い」「でもこのままでいいのか」。このループは、時間軸を一つに統合できていないことから来ている。

今の仕事が、5年後の自分にどう繋がるのか。あるいは繋がらないのか。それを冷静に診ることが、設計者としての自分に対するメンテナンスだ[※3]。

話が噛み合わないとき、まず時間軸を疑ってみる。 組織でも、自分自身でも、ズレの原因はそこにあることが多い。


関連記事

  • [※1] 【Will&Nexus 14/49】1個のオレンジを、2人とも100%手に入れる方法。
  • [※2] 【Will&Nexus 11/49】なぜあの人が昇進して、自分じゃないのか。
  • [※3] 【Will&Nexus 30/49】性格は「ハード」だ。変えるのは「ソフト」でいい。
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  • 【Will&Nexus 06/49】「それ、誰がやるんですか?」が止まらない組織。
  • 【Will&Nexus 08/49】その「1on1」、何のためにやっていますか。

この記事を書いた人

Keisuke Ishinoのアバター Keisuke Ishino

石野 敬祐(Keisuke Ishino)
経営と人事の「かかりつけ医」/ Will&Nexus 代表

外資系コンサルからキャリアをスタートし、IT・業務改革コンサル、人事・組織コンサル、事業会社の人事責任者を経て独立。組織の問題のほとんどは領域の境界線にある——その確信から、経営・人事・業務・ITを横断しながら「センターピン(本当に倒すべき一手)」を見極める仕事をしている。

視界を失いかけた経験、長い介護の日々、自分のとらわれへの気づき——そうした経験が、見立ての精度と、誠実に関わるという姿勢をつくってきた。

趣味は一つに絞れない。歌、写真、ゲーム、麻雀、ボクササイズ……その時々の興味に引っ張られて、何がメインかは常に変わる。飽き性というより、好奇心が次の扉を先に開けてしまうタイプらしい。どんな領域でも「なぜこれはこう機能するのか」と考えてしまう癖は、仕事と地続きだと思っている。

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