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【Will&Nexus 41/49】「いなくなったら回らない」は、褒め言葉じゃない。

2026 2/19
Will&Nexus
2026-02-182026-02-19
Keisuke Ishino
目次

「いなくなったら回らない」

「自分がいなくなったら、チームは回らない」。

そう感じているマネージャーやリーダーは多い。そして、その感覚は、半分は正しい。実際に、特定の人に仕事が集中している組織は多い。その人がいなくなったら、回らなくなる。

でも、その感覚にはもう一つの面がある。

「自分がいなくなったら回らない」が、自分の存在価値の証明になっている。

自分が必要とされている。自分がいないとダメだ。この感覚は、承認欲求を満たす。安心感がある。「自分には価値がある」と確認できる。

だから、無意識のうちに、仕事を手放せなくなる。手放すことが、自分の価値を減らすことに思えてしまう。


「卒業」という設計

僕はこれを、「卒業の儀式」と呼んでいる。

今の持ち場を、構造(Nexus)に託す。自分がいなくても回る仕組みを作り、手を離す。

これは「引き継ぎ」とは少し違う。引き継ぎは「今の仕事をそのまま渡す」ことだ。卒業は、「今の仕事が仕組みとして自走する状態を作ってから離れる」ことだ。

記事23[※1]で「誰でもできることを仕組みに任せる」と書いた[※1]。あれは、日常的なタスクレベルの話だった。

ここで言う卒業は、もっと大きい。自分の「役割そのもの」を仕組み化して手放すことだ。


手放すことで得られる余白

なぜ卒業する必要があるのか。

それは、自分が抱えられる量には限界があるからだ。

一人の人間が同時に見られるプロジェクトの数。同時に面倒を見られる部下の人数。同時に考えられる課題の数。すべてに上限がある。

上限に達した状態で新しいことを始めようとすると、何かが溢れる。溢れた結果、品質が落ちる。判断が鈍る。記事04[※2]で書いた「余裕のインフラ」が崩壊する[※2]。

今の持ち場を手放すことで、余白が生まれる。その余白は、次のWillに向かうためのリソースになる。

卒業は終わりではない。次のステージへの入学だ。


「出口戦略」を最初から設計する

理想的には、「出口戦略」は、始めるときに同時に設計するものだ。

プロジェクトを始めるとき、「このプロジェクトが成功したとき、自分がいなくても回る状態はどういう形か」を考える。チームを率いるとき、「このチームが自律したとき、自分はどこに移るか」を考える。

これは冷たい話ではない。むしろ、チームへの最大の贈り物だ。

マネージャーがいないと回らないチームは、マネージャーに依存している。依存している状態は、チームにとっても健全ではない。マネージャーが「いなくても回る状態」を作ることは、チームの自律を促すことだ。

記事26[※3]の「座席設計」[※3]で書いた通り、設計者はプレイヤーではない。座席を設計する人だ。座席の設計が終わったら、次の舞台の座席を設計しに行く。


「いなくても回る」を見届けた日

一つ、自分の経験を書いておきたい。

コンサルティング会社にいた頃、あるクライアント向けのプロジェクトを立ち上げから任されたことがある。提案の仕方も、プロジェクトの進め方も、クライアントとの関係構築も、全部ゼロから自分のやり方で作り上げた。当然、すべてのノウハウが自分の頭の中にあった。

うまく回っていた。クライアントからの信頼も厚かった。でも、その分だけ、自分がいないと何も進まない状態になっていた。「石野さんに聞かないとわからない」が、チーム内の口癖になっていた。

正直、少し心地よかった。「自分がいないと回らない」は、存在価値の証明でもあった。

でも同時に、これは設計ミスだとわかっていた。自分の時間は有限で、新しいことに向かう余白がなかった。

だから、少しずつ「卒業」の準備を始めた。自分がやっていたことを分解し、判断基準を言語化して、メンバーと共有した。「こういうケースはこう判断する」「迷ったらこの観点で考える」。最初はメンバーが何でも聞きに来ていたが、「まず自分で判断してみて、結果を教えて」と伝え続けた。

しばらくして出張で数日不在にしたとき、帰ってきて状況を聞いたら、全部回っていた。判断も適切だった。

嬉しさと寂しさが半々だった。自分がいなくても回る。それは設計者としては最高の成果だ。でも、「自分がいなくても大丈夫」という事実は、少しだけ寂しかった。

それでも、あの寂しさの先に、次のステージへの余白があった。実際に僕はその後、別の会社に移って、まったく新しい領域に挑戦した。手放さなければ、そこには行けなかった。


不要になる恐怖を超える

「でも、自分が不要になったら、居場所がなくなるのでは」。

この恐怖は、理解できる。

でも、考えてみてほしい。

自分が今いる場所で不要になるということは、自分が新しい場所に行けるということだ。

今の持ち場に縛られている限り、新しいチャレンジはできない。今の役割が全部自分の肩に乗っている限り、次のWillに向かう余裕がない。

不要になることは、自由になることだ。

記事13[※4]で「辞めることもハンドルを握ることだ」と書いた[※4]。卒業もまた、ハンドルを握る行為だ。今の場所に居続けることを「選ぶ」のではなく、次の場所に「向かう」ことを選ぶ。


「渡す」は最高のリーダーシップ

最後に、一つだけ。

自分の仕事を仕組み化して、チームが自走できるようにして、自分が離れても回る状態を作る。

これは、リーダーシップの最も高い形だと僕は思っている。

自分がいるから回るチームは、良いチームかもしれない。でも、自分がいなくても回るチームは、本当に強いチームだ。

そのチームを作れたなら、あなたは最高の設計者だ。そして、自信を持って次のステージに進んでいい。

自分を不要にする設計を恐れない。それが、設計者の勇気だ。


関連記事

  • [※1] 【Will&Nexus 23/49】「自分でやった方が早い」は、最も高くつく判断だ。
  • [※2] 【Will&Nexus 04/49】判断を狂わせているのは、能力じゃなく「余裕」だ。
  • [※3] 【Will&Nexus 26/49】「任せる」が怖い人へ。
  • [※4] 【Will&Nexus 13/49】人生のハンドルを、誰に預けていますか。
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この記事を書いた人

Keisuke Ishinoのアバター Keisuke Ishino

石野 敬祐(Keisuke Ishino)
経営と人事の「かかりつけ医」/ Will&Nexus 代表

外資系コンサルからキャリアをスタートし、IT・業務改革コンサル、人事・組織コンサル、事業会社の人事責任者を経て独立。組織の問題のほとんどは領域の境界線にある——その確信から、経営・人事・業務・ITを横断しながら「センターピン(本当に倒すべき一手)」を見極める仕事をしている。

視界を失いかけた経験、長い介護の日々、自分のとらわれへの気づき——そうした経験が、見立ての精度と、誠実に関わるという姿勢をつくってきた。

趣味は一つに絞れない。歌、写真、ゲーム、麻雀、ボクササイズ……その時々の興味に引っ張られて、何がメインかは常に変わる。飽き性というより、好奇心が次の扉を先に開けてしまうタイプらしい。どんな領域でも「なぜこれはこう機能するのか」と考えてしまう癖は、仕事と地続きだと思っている。

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