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【Will&Nexus 20/49】100の課題を解くな。1つだけ倒せ。

2026 2/19
Will&Nexus
2026-02-182026-02-19
Keisuke Ishino
目次

全部やらなきゃ、のパニック

あれもこれも手をつけて、全部中途半端で、夜、「今日も何も進んでいない」と思う。あの感覚を知っている人に、読んでほしい。

組織の中で課題を洗い出すと、あっという間に何十個もリストアップされる。

「コミュニケーション不足」「評価制度が曖昧」「業務の属人化」「若手の離職」「部門間の連携不足」「会議が多い」「残業が減らない」……。

真面目なリーダーほど、これを見て「全部やらなきゃ」と思う。そして、片端から手をつける。施策を10個走らせる。どれも中途半端に進んで、どれも中途半端に止まる。

これは、努力の問題ではない。問題の扱い方の問題だ。


ボウリングの1番ピン

ボウリングを想像してほしい。

10本のピンが立っている。全部倒したい。でも、ボールは1球しかない。

このとき、右端のピンを狙う人はいない。左端のピンを狙う人もいない。1番ピン(先頭のピン)を狙う。

なぜか。1番ピンに正しく当てれば、連鎖的に他のピンも倒れるからだ。

組織の課題も同じだ。10個の課題が並んでいるとき、全部に同時に手をつける必要はない。他の課題を連鎖的に解消する「1番ピン」はどれかを見極めることが、最初の仕事だ。

この1番ピンのことを、このシリーズでは「センターピン」と呼んでいる。


センターピンの見つけ方

では、どうやってセンターピンを見つけるのか。

大事なのは、因果関係を遡ることだ。

たとえば、「若手の離職が多い」という課題がある。なぜ辞めるのか。「成長実感がない」から。なぜ成長実感がないのか。「上司からのフィードバックがない」から。なぜフィードバックがないのか。「上司自身がプレイングマネージャーで時間がない」から。なぜ時間がないのか。「マネージャーの業務が属人化していて、手放せるものがない」から。

こうやって「なぜ」を繰り返していくと、10個の課題の裏に共通する「根っこ」が見えてくる。

この例だと、「マネージャーの業務の属人化」がセンターピンかもしれない。ここを解消すれば、マネージャーに時間ができ、フィードバックが増え、若手の成長実感が生まれ、離職が減る。

一つのピンを倒すことで、ドミノのように他の問題が解消される。それがセンターピンの威力だ。


「できることからやる」の罠

ここで、一つ注意したいことがある。

よく聞くアドバイスに、「まずはできることから始めよう」というものがある。一見正しく聞こえる。でも、これはセンターピン思考とは真逆だ。

「できること」と「効果があること」は違う。

できることから着手すると、取り組みやすい周辺の課題から手をつけることになる。ボウリングで言えば、端のピンを1本ずつ倒しているようなものだ。1本は倒せても、連鎖は起きない。

もちろん、センターピンが簡単に動かせるとは限らない。でも、だからといって周辺のピンを10本倒しても、根っこは残ったままだ。

大事なのは、まずセンターピンを特定し、そこに向かって何ができるかを考えるという順序だ。「何ができるか」からスタートするのではなく、「何を動かすべきか」からスタートする。


「やらない」がセンターピンだったこともある

以前、ある大きな会社から「社内の仕組みを変えたい」という相談を受けたことがある。コンサルとしてはそれなりの規模の案件になる話だった。

でも、話を聞いていくと、ちょうどトップが交代したばかりで、会社としての方向性がまだ定まっていなかった。

仕組みは、方向性が決まって初めて設計できるものだ。方向が定まらないまま変えると、あとで丸ごとやり直しになる。

だから僕は、「今はやらない方がいい」と伝えた。

コンサルとしては売上になる案件を自ら止めることになる。社内での説明も必要だった。でも、その判断は間違っていなかったと思う。先方からも、「下手に動き出さなくてよかった」と後で言っていただけた。

この経験が教えてくれたのは、センターピンは「やること」だけではなく、「やらないこと」の中にもあるということだ。

100の施策を打つよりも、今やってはいけない1つのことを止める方が、結果的にインパクトが大きいことがある。それも、センターピン思考の一つの形だと思う。


センターピンは一つとは限らない

ここで補足しておきたい。

「1番ピンを見つけろ」と言うと、「唯一絶対の正解を見つけなければいけない」と感じるかもしれない。でも、そういう話ではない。

実際の組織では、複数の因果関係が絡み合っていて、センターピンが一つとは限らない。ある部分ではAが根っこで、別の部分ではBが根っこということもある。

大事なのは、完璧なセンターピンを見つけることではなく、「センターピンはどこか?」と問い続ける習慣を持つことだ。

この問いを持つだけで、「全部やらなきゃ」というパニックから抜け出せる。「全部じゃなくていい。今、最もインパクトのある一点はどこだ?」と考えられるようになる。


観察する力

センターピンを見つけるために、特別なフレームワークは要らない。

必要なのは、観察する力だ。

何が何に繋がっているかを観察する。あの問題とこの問題は、実は同じ根っこから生えているのではないかと疑う。「なぜ?」を3回繰り返す。

これは、分解の技術[※1]の延長線上にある。塊のまま見ていると、すべてが別々の問題に見える。でも、分解して因果を辿ると、根っこが繋がっていることに気づく。

そして、情報の非対称性[※2]が解消されているほど、この観察は正確になる。見えない情報があると、因果の地図に空白ができる。空白があるまま「これがセンターピンだ」と決めつけると、見当違いの一手を打つことになる。

まず見えるようにする。次に因果を辿る。そして、最もインパクトのある一点を狙う。 この順序が大事だ。


一点に集中する勇気

最後に、一つだけ伝えたいことがある。

センターピンを見つけることは、技術だ。でも、そこに集中することは、勇気だ。

「他の課題を放置していいのか」「あれもやらなくて大丈夫か」という不安は必ず出てくる。周囲から「あの問題はどうするんだ」と言われることもある。

でも、10本のピンに同時にボールを投げることはできない。1球を、最もインパクトのある場所に、全力で投げる。それが設計者の選択だ。

100の課題を解く必要はない。たった一つのセンターピンを、正確に倒せばいい。


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  • [※1] 【Will&Nexus 16/49】「わかる」とは「分ける」こと。
  • [※2] 【Will&Nexus 11/49】なぜあの人が昇進して、自分じゃないのか。
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この記事を書いた人

Keisuke Ishinoのアバター Keisuke Ishino

石野 敬祐(Keisuke Ishino)
経営と人事の「かかりつけ医」/ Will&Nexus 代表

外資系コンサルからキャリアをスタートし、IT・業務改革コンサル、人事・組織コンサル、事業会社の人事責任者を経て独立。組織の問題のほとんどは領域の境界線にある——その確信から、経営・人事・業務・ITを横断しながら「センターピン(本当に倒すべき一手)」を見極める仕事をしている。

視界を失いかけた経験、長い介護の日々、自分のとらわれへの気づき——そうした経験が、見立ての精度と、誠実に関わるという姿勢をつくってきた。

趣味は一つに絞れない。歌、写真、ゲーム、麻雀、ボクササイズ……その時々の興味に引っ張られて、何がメインかは常に変わる。飽き性というより、好奇心が次の扉を先に開けてしまうタイプらしい。どんな領域でも「なぜこれはこう機能するのか」と考えてしまう癖は、仕事と地続きだと思っている。

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