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【Will&Nexus 19/49】「焼き畑」の代償を、あなたは計算しているか。

2026 2/19
Will&Nexus
2026-02-182026-02-19
Keisuke Ishino
目次

短期で刈り取る誘惑

仕事をしていると、「今すぐ結果を出す方法」と「時間はかかるが持続する方法」の選択を迫られる場面が何度もある。

短期の数字を追うために、チームに無理をさせる。今期の目標を達成するために、来期の種まきを後回しにする。目の前のクレームを抑えるために、根本的な原因に向き合わない。

これを、僕は「焼き畑」と呼んでいる。

焼き畑農業は、森を焼いてその灰を肥料にする農法だ。短期的には豊作になる。でも、土壌が痩せる。数年後には、同じ場所では作物が育たなくなる。

組織にも焼き畑がある。チームのエネルギーを消耗させて短期の成果を出す。でも、その代償として、離職、メンタル不調、モチベーションの低下が起きる。数年後には、同じチームからは何も生まれなくなる。


焼き畑が全部ダメなわけではない

ただし、焼き畑が常に間違いだと言いたいわけではない。

会社の存続がかかっている局面。今ここで踏ん張らなければ、来期以降がなくなる。そういう状況では、短期に全リソースを投下する判断は合理的だ。

問題は、その判断が意識的か無意識的かの違いだ。

「今は焼き畑になる。そのツケは後で払う。だから、今は踏ん張るが、この状態は3ヶ月で終わらせる」。こう自覚して選んでいるなら、設計者の判断だ。

「気づいたらずっと短期の数字を追いかけていて、チームが疲弊していた」。これは、焼き畑をしている自覚すらない状態だ。

前者と後者の差は、解像度だ。


解像度とは何か

解像度とは、自分の判断が「何に」「どこまで」影響するかを、どれだけ細かく把握できているかということだ。

解像度が低い人は、「目の前の問題を解決すればOK」と考える。解決したあとに何が起きるかまでは考えない。

解像度が高い人は、「この判断は今の問題を解決するが、3ヶ月後にここに副作用が出る。その副作用に対する手当は、このタイミングで打っておく」と考える。

どちらも同じ問題を解決している。でも、解像度の差が、半年後の結果を大きく変える。

記事24[※1]で書く因果の地図[※1]と深く関わる話だが、ここではもっと個人的な話として書きたい。

設計者に求められるのは、「正解を知っている」ことではなく、「判断の波及効果を想像できる」ことだ。


人生の最後に「良かった」と言えるか

ここからは、少し遠くの話をしたい。

記事48[※2]で、父の遺書の話を書いた[※2]。「幸せだった」と書かれた一言。

あの一言を見たとき、僕は自分に問いかけた。

自分は人生の最後に、同じことを言えるだろうか。

これは、究極の「長期視点」だ。人生という最も長い時間軸で、自分の選択を振り返ったとき、「良かった」と思えるかどうか。

焼き畑を続けて、短期の成果を積み上げた人生。でも、その過程でチームを壊し、家族との時間を失い、自分の身体を壊した。最後に「良かった」と言えるだろうか。

逆に、短期の成果は控えめだったけれど、周囲との関係を大切にし、自分のWillに沿って生きた人生。最後に「良かった」と言える確率は、こちらの方が高い気がする。

解像度の高い設計者は、「今」の判断を「最後」から逆算して考える。 それが、焼き畑を選ぶかどうかの最終的な判断基準になる。


「今」と「未来」を同時に持つ

記事07[※3]で、時間軸のズレについて書いた[※3]。

解像度とは、時間軸の話の延長線上にある。

短期だけを見るのは、解像度が低い。長期だけを見て今を無視するのも、解像度が低い。「今」と「未来」の両方を同時に視野に入れて判断できること。それが、解像度が高いということだ。

実務的に言えば、こういうことだ。

「この施策は今期の売上に貢献するか?」と「この施策は3年後の組織にどんな影響を残すか?」。この二つの問いを同時に持つ。

二つの答えが整合していれば、迷いなく打てる。整合していなければ、均衡を探す[※4]。短期と長期のどちらか一方を犠牲にするのではなく、両立する構造を設計する。


OSが整った先へ

このシリーズの第2部では、設計者の「思考のOS」を扱ってきた。

Willの特定[※5]。主体の奪還[※6]。均衡の設計[※4]。意志の品質[※7]。分解の魔力[※8]。等価交換[※9]。そして、知的解決としての飛行機[※10]。

この記事で伝えたかったのは、それらすべてのOSを動かす上で、判断の「解像度」が精度を左右するということだ。

解像度が低い状態でOSを動かしても、出力される判断の質は低い。解像度が高い状態でOSを動かせば、同じフレームワークから、より精度の高い判断が生まれる。

第3部からは、整ったOSを使って、現実の組織を「ハック」する方法に入っていく。解像度を上げた状態で、組織の構造を書き換える実践の話だ。

焼き畑を選ぶのも、種を蒔くのも、自分で決めていい。ただし、その判断の影響がどこまで届くかを、自覚して選ぶこと。 それが、設計者の解像度だ。


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この記事を書いた人

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石野 敬祐(Keisuke Ishino)
経営と人事の「かかりつけ医」/ Will&Nexus 代表

外資系コンサルからキャリアをスタートし、IT・業務改革コンサル、人事・組織コンサル、事業会社の人事責任者を経て独立。組織の問題のほとんどは領域の境界線にある——その確信から、経営・人事・業務・ITを横断しながら「センターピン(本当に倒すべき一手)」を見極める仕事をしている。

視界を失いかけた経験、長い介護の日々、自分のとらわれへの気づき——そうした経験が、見立ての精度と、誠実に関わるという姿勢をつくってきた。

趣味は一つに絞れない。歌、写真、ゲーム、麻雀、ボクササイズ……その時々の興味に引っ張られて、何がメインかは常に変わる。飽き性というより、好奇心が次の扉を先に開けてしまうタイプらしい。どんな領域でも「なぜこれはこう機能するのか」と考えてしまう癖は、仕事と地続きだと思っている。

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