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【Will&Nexus 21/49】なぜ「正しい施策」が空振りするのか。

2026 2/19
Will&Nexus
2026-02-182026-02-19
Keisuke Ishino
目次

センターピンを見つけた、のに

「ここだ」と見極めた。施策を打った。ロジックも通っている。なのに、何も変わらない。現場は動かない。成果が出ない。

正しいはずなのに、当たらない。この経験をしたことがある人は多いのではないだろうか。

これは、センターピンが間違っているとは限らない。ボールの投げ方に問題がある可能性がある。


三つの「当たらない」原因

ボウリングで1番ピンに当たらない原因は、大きく三つに分かれる。

① 視点のズレ ―― そもそもピンが見えていない

狙うべきピンを間違えている。見えている課題と、本当のセンターピンが違う。表面の症状を根っこだと思い込んでいる。

② 軌道のズレ ―― コースが逸れている

センターピンは見えている。でも、ボールがそこに届いていない。打つ順序が間違っている。投げる相手が間違っている。施策は正しいのに、実行のプロセスが機能していない。

③ 衝撃のズレ ―― 力が伝わっていない

センターピンも見えている。コースも合っている。でも、ボールが弱すぎてピンが倒れない。正しいことを言っているのに、現場に響かない。相手が動かない。

この三つを、僕は「視点・軌道・衝撃」と呼んでいる。施策が空振りしたとき、この三つのどこにズレがあるかを診ることで、打ち手を修正できる。


視点のズレ:見ているものが違う

最も根深いのが、視点のズレだ。

たとえば、「社員のモチベーションが低い」という課題。これをセンターピンだと思って、モチベーション研修を導入する。でも何も変わらない。

なぜか。モチベーションの低下は「症状」であって「原因」ではないからだ。原因は、評価の不透明さかもしれない。業務の属人化かもしれない。上司との関係性かもしれない。

情報の非対称性[※1]が残っている状態でセンターピンを特定しようとすると、この罠に陥りやすい。見えている情報だけで因果を辿ると、途中で地図が途切れる。途切れた先に本当のセンターピンがあるのに、手前の症状を根っこだと思い込む。

視点のズレを防ぐために大事なのは、「これは本当に原因なのか、それとも症状なのか?」と常に問い続けることだ。「なぜ?」をもう1回だけ余分に繰り返す。その1回が、見えている世界を変えることがある。


軌道のズレ:順序と配置が違う

センターピンは見えている。でも、ボールがそこに届かない。これが軌道のズレだ。

よくあるのは、「順序」の間違い。

たとえば、「業務の属人化」がセンターピンだとわかった。だから、マニュアルを作ろうとする。正しい判断だ。でも、マニュアルを作る前に、そもそも「何が属人化しているのか」を可視化する作業が必要だ。いきなり「マニュアルを作れ」と言っても、現場は「何を書けばいいかわからない」と止まる。

もう一つは、「配置」の間違い。

誰がボールを投げるか。自分が投げるのか、他の人に投げてもらうのか。センターピンに最も近い人は誰か。自分が正しいと思っても、現場との距離が遠ければボールは届かない。

軌道のズレは、施策の中身ではなく「プロセス」の設計ミスだ。何をやるかは合っているのに、どうやるか、誰がやるか、どの順番でやるかが合っていない。


衝撃のズレ:正論が響かない

三つ目が、衝撃のズレだ。

これは、正しいことを言っているのに現場が動かないパターン。リーダーが最も苦しむのが、このケースだと思う。

衝撃がズレる原因は、たいてい相手の文脈を無視していることにある。

自分にとってのセンターピンが、相手にとってもセンターピンとは限らない。相手には相手のWillがあり、相手の現実がある。「これが正しいんだからやってくれ」というのは、ボウリングで言えば、ものすごいスピードのボールをレーンの外に投げているようなものだ。速くても、当たらない。

均衡の設計[※2]で書いた通り、相手のWillと自分のWillが釣り合うポイントを見つけることが重要だ。相手が「自分にとってもメリットがある」と感じなければ、どんなに正しい施策も動かない。

正論を「相手の言葉」に翻訳する。相手の文脈に橋を架ける。それが衝撃を正しく伝えるための技術だ。


三つを同時に診る

施策が空振りしたとき、多くの人は「施策が間違っていたのでは」と考える。つまり、視点のズレだけを疑う。

でも、実際には軌道や衝撃のズレであることも多い。施策の中身は合っているのに、順序を変えるだけで動き出すこともある。伝え方を変えるだけで響くこともある。

まず視点を確認する。 狙っているピンは本当にセンターピンか?

次に軌道を確認する。 ボールはそこに届くプロセスになっているか? 順序は? 担い手は?

最後に衝撃を確認する。 届いたボールは、相手に響いているか? 相手の文脈で翻訳できているか?

この三つを順に診るだけで、「なぜうまくいかないのか」の仮説が立てやすくなる。そして、仮説が立てば、修正ができる。


「投げ方」を振り返る

ここまで読んで、一つ自分に問いかけてみてほしい。

自分には、どのズレの癖があるだろうか。

分析が好きな人は、視点にばかり時間をかけて、実行(軌道)が遅れがちかもしれない。行動力のある人は、とにかく投げるが、相手への配慮(衝撃)が足りないかもしれない。調整力のある人は、プロセス(軌道)は完璧だが、そもそも狙うべきピン(視点)がズレているかもしれない。

設計者にとって大事なのは、自分の投げ方の癖を知っていることだ。癖を知っていれば、空振りしたときに何を修正すればいいかがわかる。

視点・軌道・衝撃。この三つのレンズを、組織をハックするための地図として持っておいてほしい。


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この記事を書いた人

Keisuke Ishinoのアバター Keisuke Ishino

石野 敬祐(Keisuke Ishino)
経営と人事の「かかりつけ医」/ Will&Nexus 代表

外資系コンサルからキャリアをスタートし、IT・業務改革コンサル、人事・組織コンサル、事業会社の人事責任者を経て独立。組織の問題のほとんどは領域の境界線にある——その確信から、経営・人事・業務・ITを横断しながら「センターピン(本当に倒すべき一手)」を見極める仕事をしている。

視界を失いかけた経験、長い介護の日々、自分のとらわれへの気づき——そうした経験が、見立ての精度と、誠実に関わるという姿勢をつくってきた。

趣味は一つに絞れない。歌、写真、ゲーム、麻雀、ボクササイズ……その時々の興味に引っ張られて、何がメインかは常に変わる。飽き性というより、好奇心が次の扉を先に開けてしまうタイプらしい。どんな領域でも「なぜこれはこう機能するのか」と考えてしまう癖は、仕事と地続きだと思っている。

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