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【Will&Nexus 15/49】「先生になりたかった」の裏にあったもの。

2026 2/19
Will&Nexus
2026-02-182026-02-19
Keisuke Ishino
目次

「先生になりたかった」の裏にあったもの

僕は、若い頃「先生になりたい」と思っていた。

教育実習にも行った。実際に教壇に立ってみて、教えること自体は楽しかった。目の前の人が「わかった」と表情を変える瞬間。その手応えは、本物だった。

でも、教育実習を終えたとき、なぜか「先生にはならない」と思った。

学校という場所の中で、先生でいること。その環境に自分が合わないと感じた。教えたいという気持ちはあった。でも、「先生として認められたい」という気持ちも混ざっていた。教壇に立つ姿をカッコいいと思っていた自分がいた。

結局僕は、教員ではなくコンサルタントになった。遠回りに見えるかもしれない。でも、何年も経ってから気づいた。僕のWillは「先生になること」ではなく、「メカニズムを解き明かして、それを人に伝えること」だった[※1]。

「先生になりたい」という言葉の中に、本物のWillと、見栄えのいいエゴが混ざっていた。それを当時の僕は区別できていなかった。


Willとエゴの見分け方

Willとエゴ。この二つは、外から見ると驚くほど似ている。

どちらも「やりたい」と言う。どちらもエネルギーを持っている。どちらも人を動かす力がある。

でも、性質がまったく違う。

Willは、行為そのものに向かうエネルギーだ。「教えたい」「解き明かしたい」「創りたい」。対象が何であれ、その行為自体に喜びがある。報酬がなくても、評価されなくても、勝手に手が動く。記事12[※1]で書いた「止められても、やめられないこと」だ。

エゴは、行為を通じた自己証明に向かうエネルギーだ。「教えている自分を認めてほしい」「すごいと思われたい」「自分の正しさを証明したい」。行為そのものではなく、行為を通じて得られるステータスや承認に燃料を求めている。

見分けるポイントは、シンプルだ。

「それが報われなくても、認められなくても、続けるか?」

この問いに「はい」と答えられるなら、それはWillだ。「いいえ」なら、エゴの可能性が高い。

僕の場合、「先生になること」は「いいえ」だった。先生という肩書きや立場が消えたら、情熱も消える。でも、「メカニズムを解き明かして伝えること」は「はい」だった。実際、先生にはならなかったけれど、コンサルタントとして、研修講師として、そしてこうしてブログを書く中で、同じことを形を変えて続けている。


「声の大きい人」問題

ここからは、組織の話に移りたい。

組織の中で、こんな場面に出くわしたことはないだろうか。

会議で一番声が大きい人の意見が通る。提案の中身よりも、プレゼンの勢いで決まる。静かに考えている人の意見は、拾われない。

声が大きい人の意見が、必ずしも間違っているわけではない。でも、声が大きいことと、意見の質が高いことは、別の話だ。

ここで言う「声の大きさ」は、物理的な声量だけの話ではない。自信に満ちた態度、断言する口調、エネルギッシュなプレゼンテーション。そういった「押しの強さ」全般のことだ。

問題なのは、組織がこの「押しの強さ」をWillの質と混同してしまうことだ。


エゴが混ざったWillの危うさ

声の大きい人のエネルギーの中に、エゴが混ざっていることは珍しくない。

「この企画をやりたい」の裏に、「この企画を成功させた自分として認められたい」が隠れている。「チームを変えたい」の裏に、「チームを変えた実績を作りたい」が潜んでいる。

もちろん、エゴがゼロの人間なんていない。僕自身だってそうだ。何かを提案するとき、「これが正しいと証明したい」というエネルギーが混ざっていることは、正直に言えば、ある。

問題は、エゴが悪いかどうかではない。エゴが判断を歪めるかどうかだ。

エゴが強すぎる提案は、柔軟性を失う。「自分が正しい」を前提にしているから、反論を受け入れられない。修正ができない。途中で方向転換が必要になっても、引くに引けなくなる。

一方、Willに根ざした提案は、柔軟だ。なぜなら、目的は「行為そのもの」であって「自分の正しさの証明」ではないから。手段が変わっても、目的が達成できるならそれでいい。

エゴが目的化すると、施策が硬直する。Willが目的なら、施策は柔軟に変えられる。


静かなWillを拾い上げる

もう一つ、大事な視点がある。

声の大きい人の反対側に、声の小さい人がいる。

会議で発言しない人。自分から手を挙げない人。アイデアを持っていても、「言う場」がないと思っている人。

こういう人のWillは、組織の中で埋もれやすい。

でも、静かであることと、Willが弱いことは違う。むしろ、静かなWillの方が本物であることは多い。承認を求めて声を上げているのではなく、純粋に「こうしたい」と思っているだけだ。ただ、それを組織の言語に翻訳する術を持っていない。

設計者の仕事の一つは、この静かなWillを拾い上げる構造を作ることだと思う。

たとえば、会議の前に各自の意見を書面で集める。発言の順番を変える。小さいグループで先に話し合う時間を設ける。

これは「優しさ」の話ではない。組織のエネルギー効率の話だ。声の大きい人の意見だけで動くと、組織はその人のバイアスに引っ張られる。静かなWillを拾い上げることで、より多様な選択肢が見え、判断の精度が上がる。

情報の非対称性[※2]を解消するのと同じだ。見えていない情報があれば、判断は歪む。聞こえていないWillがあれば、設計は歪む。


「行動力」への賞賛と、内容の精査

ここで、一つ注意したいことがある。

声が大きい人、行動力のある人に対して、僕は否定的に語りたいわけではない。

リスクを取って動くこと自体は、賞賛に値する。 考えているだけで動かない人よりも、動く人の方がチームに貢献していることも多い。

大事なのは、行動力への賞賛と、行動の内容への精査を分けることだ。

「あの人は行動力がある」と「あの人の提案は正しい」は、別の評価だ。これを混同すると、行動力のある人の提案がノーチェックで通る構造ができあがる。

均衡の設計[※3]で書いた通り、設計者は常に「全体のWillが殺されていないか」を確認する。声の大きい人のWillを殺す必要はない。でも、その人のWillだけで組織が動いている状態は、均衡が崩れている。


自分のWillを点検する

最後に、自分自身に矢印を向けてみたい。

自分の「やりたい」の中に、エゴはどれくらい混ざっているか。

これは自分を責めるための問いではない。自分のWillの「品質」を確認するための定期点検だ。

記事30[※4]で「自分をデバッグする」という話を書いた[※4]。自分の思考の癖を見つけて、OSをアップデートする。Willの品質チェックも、その延長線上にある。

いくつかの問いを挙げてみる。

「この提案が通らなかったとき、自分は何を感じるか?」

悔しさの中身を分解する。「アイデア自体が実現しないことが残念」なら、Will寄りだ。「自分が否定されたと感じる」なら、エゴが混ざっている可能性がある。

「手段が変わっても、目的が達成されるならOKか?」

自分のやり方にこだわるのか、結果にこだわるのか。やり方へのこだわりが強すぎるなら、「自分のやり方を証明したい」というエゴが動力になっているかもしれない。

「誰にも見えないところでも、同じことをやるか?」

これは記事12[※1]で書いた「止められても、やめられないか」と同じ問いを、別の角度から投げかけている。人に見せるためにやっているのか、自分のためにやっているのか。


品質の高いWillが、組織を動かす

声の大きさでも、行動力でも、ポジションでもない。

組織を本当に動かすのは、品質の高いWillだ。

それは、エゴが少なく、目的に向かって柔軟に形を変えられるエネルギーのこと。報われなくても消えないし、反論されても折れない。でも、より良い手段が見つかれば、躊躇なくそちらに切り替えられる。

声が大きくても、中身がエゴだけなら、組織は消耗する。声が小さくても、Willが本物なら、正しく拾い上げれば組織は動く。

設計者は、声の大きさに惑わされず、Willの品質を見極めるフィルターを持つ必要がある。 そして、品質の高いWillが――それが誰の中にあろうと――正しく流通する構造を設計することが、組織をハックする上での大事な一手になる。


関連記事

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  • [※3] 【Will&Nexus 14/49】1個のオレンジを、2人とも100%手に入れる方法。
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この記事を書いた人

Keisuke Ishinoのアバター Keisuke Ishino

石野 敬祐(Keisuke Ishino)
経営と人事の「かかりつけ医」/ Will&Nexus 代表

外資系コンサルからキャリアをスタートし、IT・業務改革コンサル、人事・組織コンサル、事業会社の人事責任者を経て独立。組織の問題のほとんどは領域の境界線にある——その確信から、経営・人事・業務・ITを横断しながら「センターピン(本当に倒すべき一手)」を見極める仕事をしている。

視界を失いかけた経験、長い介護の日々、自分のとらわれへの気づき——そうした経験が、見立ての精度と、誠実に関わるという姿勢をつくってきた。

趣味は一つに絞れない。歌、写真、ゲーム、麻雀、ボクササイズ……その時々の興味に引っ張られて、何がメインかは常に変わる。飽き性というより、好奇心が次の扉を先に開けてしまうタイプらしい。どんな領域でも「なぜこれはこう機能するのか」と考えてしまう癖は、仕事と地続きだと思っている。

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