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【Will&Nexus 32/49】あなたの脳は、見たいものしか見ていない。

2026 2/19
Will&Nexus
2026-02-182026-02-19
Keisuke Ishino
目次

「見えている」は本当か

車を買おうと思った途端、街中で同じ車種が急に目につくようになる。あれは、車が増えたのではない。あなたの脳のフィルターが変わっただけだ。

脳は、入ってくる膨大な情報のうち、ごく一部しか意識に上げていない。残りは、無意識のうちにフィルターで弾かれている。

このフィルターを決めているのは、自分が「何を重要だと思っているか」だ。

組織の中でも、まったく同じことが起きている。


RAS:脳の「検索エンジン」

脳科学の分野で、この仕組みは「RAS(網様体賦活系)」と呼ばれている。

RASは、脳幹にある神経のネットワークで、外界から入ってくる情報のうち、何を意識に上げるかを選別するフィルターだ。

このフィルターの基準は、自分が「重要だ」と認識しているものに合わせて設定される。つまり、何をゴールに設定するかで、見える情報が変わる。

記事31[※1]で「現状の外側にゴールを置く」と書いた[※1]。ゴールを設定した瞬間、RASがそのゴールに関連する情報を拾い始める。今まで見えなかったチャンスが見えるようになる。今まで気づかなかった人脈が目に入るようになる。

ゴールを変えると、世界が変わる。 世界が変わったのではなく、自分のフィルターが変わったのだ。


スコトーマ:心理的盲点

RASの裏返しが、「スコトーマ」だ。

スコトーマとは、脳が「重要ではない」と判断して、意識に上げない情報のこと。心理的盲点だ。

厄介なのは、スコトーマの中に、自分にとって本当は重要な情報が隠れている可能性があるということだ。

たとえば、「自分はマネジメントが向いていない」と思い込んでいる人がいる。その人のRASは、「自分がマネジメントでうまくいかなかった証拠」を自動的に拾い続ける。逆に、「自分がマネジメントでうまくいった場面」はスコトーマに入って、見えなくなる。

結果、確信が強まる。「やっぱり自分は向いていない」。

でも、本当に向いていないのだろうか。それとも、向いていないという思い込みが、向いている証拠を隠しているのではないか。

自分の認知には、必ず盲点がある。 これを自覚することが、「認知の監査」の第一歩だ。


情報収集の罠

「もっと情報を集めなければ、判断できない」。

こういう人がいる。情報収集自体は大事だ。でも、ここに罠がある。

集めた情報は、すでに自分のフィルターを通っているのだ。

不安な人は、不安を裏付ける情報を集める。楽観的な人は、楽観を裏付ける情報を集める。同じテーマについて調べているのに、集まる情報がまるで違う。

つまり、情報を「何を集めるか」よりも前に、「自分のフィルターがどうなっているか」を確認する必要がある。

記事11[※2]で情報の非対称性について書いた[※2]。あの記事では、組織の構造が情報の偏りを生んでいた。この記事では、自分自身の認知が情報の偏りを生んでいることを指摘したい。

情報の非対称性は、外側だけでなく内側にもある。


「外部センサー」としての他者

では、自分の盲点をどうやって見つけるか。

一人では難しい。なぜなら、盲点は「見えない」から盲点なのであって、自分で見つけようとしても見えない。

だから、他者を「外部センサー」として使う。

自分とは違うフィルターを持っている人に、自分の状況を話してみる。すると、「こういう見方もあるんじゃない?」という、自分では絶対に出てこなかった視点が返ってくることがある。

記事29[※3]で「外部センサー」の重要性を書いた[※3]。別の記事でも、ブリーフシステムに気づくためには外からの視点が要ると触れている[※4]。

信頼できる人、自分と異なる背景を持つ人、忌憚なく意見を言ってくれる人。こうした人たちは、自分のスコトーマを照らしてくれるライトだ。


「アラ」が見えなくなった日

僕自身、スコトーマが外れた経験がある。

ある時期、とにかく忙しかった。複数の案件が同時に動き、一つひとつに丁寧に時間をかける余裕がなかった。

それまでの僕は、自分のアウトプットの品質にこだわるタイプだった。細部まで気を配り、粗がないか何度も確認する。「ここ、もう少し詰めた方がいいんじゃないか」と自分に厳しく、時間をかけて仕上げる。

でも、その時期はそんな余裕がなかった。「こんな仕上がりで出して大丈夫だろうか」と内心ヒヤヒヤしながら、次々と仕事を片付けていった。自分の中では「無双モード」と呼んでいた。丁寧さを犠牲にしてでも、とにかく前に進む。

驚いたことに、周囲からの評価は下がらなかった。むしろ、「あれもこれも片付けてくれている」という方に評価された。

そのとき気づいた。僕が気にしていた「アラ」は、実は周囲にとってはそこまで重要ではなかったのだ。自分の品質基準というフィルターが、「これでは足りない」という情報ばかりを拾い、「十分に価値を出せている」という情報をスコトーマに入れていた。

これは小さな話に聞こえるかもしれない。でも、認知のフィルターが変わった瞬間だった。「自分の粗を気にする」フィルターが外れたことで、「何を優先すれば最も価値が出るか」というフィルターに切り替わった。


ゴールがフィルターを変え、フィルターが世界を変える

まとめよう。

① ゴールを設定する。 現状の外側に、本物のWillに基づいたゴールを置く。

② RASが動き出す。 ゴールに関連する情報を、脳が自動的に拾い始める。今まで見えなかったものが見えるようになる。

③ スコトーマが減る。 ゴールに向かう過程で、盲点が照らされる。自分の思い込みに気づく。

④ 判断の精度が上がる。 フィルターが最適化されることで、より正確な情報に基づいた判断ができるようになる。

不安に駆られて情報を集め回る必要はない。まず、自分が何を見たいのかを決める。そうすれば、脳が勝手に必要な情報を拾ってくれる。

認知を監査するとは、自分のフィルターの設定を確認し、必要に応じて調整することだ。それは、設計者が自分というシステムの入力を最適化する作業だ。


関連記事

  • [※1] 【Will&Nexus 31/49】大学院を留年した日、僕は初めてゴールを見つけた。
  • [※2] 【Will&Nexus 11/49】なぜあの人が昇進して、自分じゃないのか。
  • [※3] 【Will&Nexus 29/49】「やっぱり自分が正しかった」で終わっていないか。
  • [※4] 【Will&Nexus 34/49】あなたが重いのは、見えない「〜すべき」を背負っているからだ。
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  • 【Will&Nexus 33/49】その怒り、「定数」に向かっていませんか。

この記事を書いた人

Keisuke Ishinoのアバター Keisuke Ishino

石野 敬祐(Keisuke Ishino)
経営と人事の「かかりつけ医」/ Will&Nexus 代表

外資系コンサルからキャリアをスタートし、IT・業務改革コンサル、人事・組織コンサル、事業会社の人事責任者を経て独立。組織の問題のほとんどは領域の境界線にある——その確信から、経営・人事・業務・ITを横断しながら「センターピン(本当に倒すべき一手)」を見極める仕事をしている。

視界を失いかけた経験、長い介護の日々、自分のとらわれへの気づき——そうした経験が、見立ての精度と、誠実に関わるという姿勢をつくってきた。

趣味は一つに絞れない。歌、写真、ゲーム、麻雀、ボクササイズ……その時々の興味に引っ張られて、何がメインかは常に変わる。飽き性というより、好奇心が次の扉を先に開けてしまうタイプらしい。どんな領域でも「なぜこれはこう機能するのか」と考えてしまう癖は、仕事と地続きだと思っている。

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