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【Will&Nexus 44/49】仕組みは8割で止める。残り2割が、チームを動かす。

2026 2/19
Will&Nexus
2026-02-182026-02-19
Keisuke Ishino
目次

完璧な仕組みが、チームを殺す

構造を設計する。仕組みを作る。このシリーズではずっとそう書いてきた。

でも、ここで一つの落とし穴がある。

仕組みを「完璧に」作ろうとすると、チームが息をしなくなるのだ。

マニュアルを隙間なく整備する。プロセスを完璧に定義する。例外なくルール通りに動くようにする。設計者としては最高の仕事に見える。

ところが、完璧な仕組みの中で働く人たちは、どうなるか。

考えなくなる。工夫しなくなる。「マニュアルに書いてないからわかりません」と言い始める。自分のWillを注ぎ込む余地がないのだから、当然だ。

完璧な仕組みは、人から「主体」を奪う仕組みにもなりうる。


8割の設計という思想

僕は、仕組みは8割で止めるのがちょうどいいと考えている。

8割は構造で固める。方向性、基本ルール、判断基準、情報の流れ。これらは設計者が責任を持って整える。ここが崩れると、全体が機能しない。

でも、残りの2割は、あえて空けておく。

この2割が、チームメンバーが自分のWillを注ぎ込む余白になる。「ここは自分で考えていいんだ」「ここは自分なりのやり方を試していいんだ」。そう感じられるスペースがあることで、人は主体的に動き出す。


「余白」は手抜きではない

ここで誤解してほしくないのは、8割の設計は意図的な設計であって、手抜きではないということだ。

何も考えずに中途半端な仕組みを作るのは、ただの怠慢だ。それは8割の設計ではなく、5割の設計だ。

8割の設計とは、「どの8割を固め、どの2割を空けるか」を意図的に選んでいるということだ。

たとえば、カレー屋を想像してほしい。レシピ(ルーの配合、煮込み時間、提供温度)は完璧に決めておく。でも、「今日のトッピング」はスタッフが自由に選べるようにする。

レシピが崩れたらカレーの品質が落ちる。でも、トッピングまで固めたら、スタッフはただのオペレーターになる。「今日は温泉卵を乗せてみたらどうだろう」と考える余地があることで、スタッフは仕事に自分の意志を込められる。

固めるべきところは固める。空けるべきところは空ける。 その選択こそが、設計者の腕の見せどころだ。


余白がWillを呼び込む

なぜ2割の余白が大事なのか。

それは、余白が「他者のWill」を呼び込む装置だからだ。

別の記事で、Willについて書いた[※1]。止められてもやめられない、内側から湧き出すエネルギー。これは、指示されて出てくるものではない。「自分で選べる」という条件があってはじめて生まれる。

完璧な仕組みの中には、「自分で選ぶ」余地がない。だからWillが起動しない。仕組み通りに動くだけの、燃料のないエンジンになる。

2割の余白があると、そこにメンバーの創意工夫が入り込む。「こうしたらもっと良くなるんじゃないか」「こういうやり方もあるのでは」。その提案が仕組みに取り込まれることで、仕組み自体が進化していく。

設計者一人で作った仕組みは、設計者一人分の知恵しか入っていない。 でも、2割の余白を通じてチーム全員のWillが流れ込めば、仕組みはチーム全員分の知恵を持つようになる。


おもてなしとしての余白

この「余白」を、僕はおもてなしだと思っている。

「あなたの考えを聞かせてほしい」「ここはあなたの判断に任せたい」。そう言えるのは、設計者が8割をしっかり固めているからだ。

土台が不安定なまま「自由にやっていいよ」と言うのは、無責任だ。それは余白ではなく、放任だ。

8割の安定した構造があるからこそ、残りの2割で「あなたの出番ですよ」と言える。それは、メンバーに対する最も知的なおもてなしだ。


「全部わかっていなくても、回る」という発見

僕自身、8割の設計を体で覚えた経験がある。

あるとき、複数の領域を同時に見る立場を任された。いくつかは経験があったが、それ以外はほぼ未経験。業務の全貌を短期間で理解しきれるようなものではなかった。

以前の僕なら、「責任者なんだから全部わかっていないとダメだ」と思い込んで、すべてを自分で把握しようとしただろう。

でも、そのときは事情があってそうできなかった。自分のエネルギーにも限りがあった。だから、自分が詳しくない領域の日常業務は、経験の長いメンバーに委ねることにした。判断基準と、困ったときの相談ルートだけは明確にして、あとは任せた。

すると、回った。

それどころか、自分が全部を把握しようとしていた頃よりも、メンバーが自分で考えて動いている感覚があった。僕が口を出さない領域がある分、メンバーは自分の判断で工夫していた。

マネジメントはすべての上位互換でないといけない。全部わかっていないと責任者として失格だ。ずっとそう思い込んでいた。でも、わからない部分を認めて、任せるべきところを任せたら、全体としてはむしろうまく回った。

これが、僕にとっての「8割の設計」の原体験だった。


完璧主義の正体

完璧に仕組みを作りたがるリーダーには、共通する心理がある。

「自分がコントロールできない部分が怖い」という心理だ。

メンバーに任せたら、自分の想定と違う動きをするかもしれない。品質が落ちるかもしれない。それが怖いから、すべてを固めようとする。

先ほどの僕の経験で言えば、以前の僕がまさにこれだった。全部わかっていないと怖い。任せるのが怖い。だから、全部を自分で抱え込もうとする。

でも、この恐怖は本末転倒だ。ハンドルの話を思い出してほしい[※2]。設計者がすべてをコントロールするということは、メンバーからハンドルを奪っているということだ。

設計者の仕事は、メンバーがハンドルを握れる舞台を作ることであって、すべてのハンドルを自分が握ることではない。


「未完成」を設計する

まとめよう。

8割の設計とは、意図的に「未完成」を設計することだ。

固めるべき8割:方向性、基本ルール、判断基準、情報の流れ、品質の最低ライン。ここは設計者が責任を持つ。

空けるべき2割:やり方の工夫、改善提案、個人の表現、実験の余地。ここはメンバーのWillに委ねる。

この「8:2」の比率は固定ではない。チームの成熟度や状況に応じて変わる。まだ経験が浅いチームなら、9割固めて1割空けるくらいがいいかもしれない。自律的なチームなら、7割固めて3割空けてもいい。

大事なのは、「完璧にしない」ことを恐れないことだ。

完璧な仕組みは、設計者の自己満足かもしれない。でも、8割の仕組みは、チーム全員の舞台になる。

完璧を目指さない勇気が、全員を主人公にする。


関連記事

  • [※1] 【Will&Nexus 12/49】「やりたいことがわからない」は、探し方が違うだけだ。
  • [※2] 【Will&Nexus 13/49】人生のハンドルを、誰に預けていますか。
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この記事を書いた人

Keisuke Ishinoのアバター Keisuke Ishino

石野 敬祐(Keisuke Ishino)
経営と人事の「かかりつけ医」/ Will&Nexus 代表

外資系コンサルからキャリアをスタートし、IT・業務改革コンサル、人事・組織コンサル、事業会社の人事責任者を経て独立。組織の問題のほとんどは領域の境界線にある——その確信から、経営・人事・業務・ITを横断しながら「センターピン(本当に倒すべき一手)」を見極める仕事をしている。

視界を失いかけた経験、長い介護の日々、自分のとらわれへの気づき——そうした経験が、見立ての精度と、誠実に関わるという姿勢をつくってきた。

趣味は一つに絞れない。歌、写真、ゲーム、麻雀、ボクササイズ……その時々の興味に引っ張られて、何がメインかは常に変わる。飽き性というより、好奇心が次の扉を先に開けてしまうタイプらしい。どんな領域でも「なぜこれはこう機能するのか」と考えてしまう癖は、仕事と地続きだと思っている。

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