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【Will&Nexus 40/49】「戦略」の定義がズレている組織は、絶対にうまくいかない。

2026 2/19
Will&Nexus
2026-02-182026-02-19
Keisuke Ishino
目次

「同じ日本語」なのに通じない

「イノベーション」と経営が言う。現場は「で、具体的に何をすれば?」と思う。「エンゲージメントを高める」と人事が言う。マネージャーは「で、何をすればいいの?」と困る。

同じ日本語を使っているのに、通じていない。

これは、語彙力の問題ではない。同じ言葉に、それぞれ違う意味を載せているからだ。


言葉は「配管」である

このシリーズのメタファーで言えば、言葉はWillを流す「配管」だ。

Willはエネルギーだ。エネルギーが目的に届くためには、配管が必要だ。配管が詰まっていたり、途中で漏れていたりすると、エネルギーは届かない。

組織の中で言葉がバラバラなのは、配管の規格が統一されていない状態だ。

A部署の配管とB部署の配管の口径が違う。繋いでも、ジョイント部分で漏れる。エネルギーが全部は届かない。

「イノベーション」という言葉一つとっても、経営が考えているイノベーションと、現場が想像するイノベーションは違う。この「ズレ」が、摩擦を生む。


「主観」を「接続規約」に変換する

では、どうすればいいか。

曖昧な言葉を、具体的な「仕様」に変換する。

「エンゲージメントを高める」を、「半年後に、社員アンケートの『この会社で働くことを周囲にも勧めたい』の項目が、現在の3.2から3.8に上がっている状態」に変換する。

「イノベーション」を、「今期中に、既存事業以外から売上の5%が生まれている状態」に変換する。

数字にする必要はない場合もある。大事なのは、「その言葉が実現したとき、何がどう変わっているか」を、全員が同じ絵を描けるレベルまで具体化することだ。

これを僕は、「ハッピーの仕様定義」と呼んでいる(→別の記事で詳しく触れる。記事48[※3]「ハッピーという究極の合理性」)。

ハッピー(理想の状態)を定義するとき、曖昧な言葉のまま進めると、全員がバラバラの方向に走る。「仕様」として定義することで、全員が同じゴールに向かえる。


配管のメンテナンス

配管は、一度通したら終わりではない。

組織は常に変化する。人が入れ替わる。事業の方向が変わる。市場が変わる。

そのたびに、配管のメンテナンスが必要だ。「あの言葉、今も同じ意味で使っているか?」を確認する。

たとえば、半年前に定義した「エンゲージメント」の仕様が、今の組織のフェーズに合っているか。合っていなければ、再定義する。

言葉を揃える作業は、一回やって終わりではなく、継続的なメンテナンスだ[※1]。均衡と同じで、動的に調整し続けるものだ。


「戦略」が通じない

言葉のズレで最も根深いと感じているのが、「戦略」という言葉だ。

僕は戦略を、「戦わない領域を決めること。限りあるリソースの中で最大限の成果を出すための方針と計画」と捉えている。つまり、何をやらないかを決めることが戦略の本質だ。

でも、多くの組織で「戦略」と呼ばれているものは、ビジョンだったり、ざっくりとした計画だったりする。「今期の戦略はDXの推進です」。それは戦略ではなく、テーマだ。「どの領域に集中し、何を捨て、どの順番で進めるか」まで詰まって、はじめて戦略と呼べる。

これまで何度も、「それは戦略になっていない。もっと詰めないと、現場の足並みが揃わないし、みんなしんどくなる」と指摘してきた。でも、なかなか変わらない。「戦略」という言葉が共通言語のふりをして、実は全員がバラバラの意味で使っているからだ。

結果として何が起きるか。現場に未来が見えなくなる。 方針が曖昧なまま「とにかく頑張れ」になる。頑張っても手応えがない。諦め感が広がる。現場が疲弊する。

配管が繋がっているように見えて、ジョイント部分で全部漏れている。経営のWillが現場に届かないのは、エネルギーが足りないからではない。配管の規格が合っていないからだ。

これは「戦略」に限った話ではない。「主体性」「当事者意識」「自律」。こうした抽象度の高い言葉は、定義しないまま使うと、共通言語のふりをしたバラバラの方言になる。まず仕様を揃えること。それが、WillをNexusに繋ぐ第一歩だ。


個と組織のインターフェース

第4部で個のハックを扱い、この第5部で個と組織をつなぐ話をしている。

共通言語は、その「つなぎ目」だ。

個人がどれだけ自律していても[※2]、組織との接続規約がなければ、個のエネルギーは組織に届かない。

逆に、組織がどれだけ立派な構造を持っていても、個人の言語と組織の言語がズレていれば、構造は機能しない。

共通言語は、WillをNexusに繋ぐためのインターフェースだ。

まず、自分のチームの中で、「よく使うけど、実は定義が曖昧な言葉」を一つ見つけてみてほしい。そして、その言葉の「仕様」を一緒に定義してみてほしい。

それだけで、配管のジョイントが一つ直る。エネルギーの漏れが一つ減る。


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この記事を書いた人

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石野 敬祐(Keisuke Ishino)
経営と人事の「かかりつけ医」/ Will&Nexus 代表

外資系コンサルからキャリアをスタートし、IT・業務改革コンサル、人事・組織コンサル、事業会社の人事責任者を経て独立。組織の問題のほとんどは領域の境界線にある——その確信から、経営・人事・業務・ITを横断しながら「センターピン(本当に倒すべき一手)」を見極める仕事をしている。

視界を失いかけた経験、長い介護の日々、自分のとらわれへの気づき——そうした経験が、見立ての精度と、誠実に関わるという姿勢をつくってきた。

趣味は一つに絞れない。歌、写真、ゲーム、麻雀、ボクササイズ……その時々の興味に引っ張られて、何がメインかは常に変わる。飽き性というより、好奇心が次の扉を先に開けてしまうタイプらしい。どんな領域でも「なぜこれはこう機能するのか」と考えてしまう癖は、仕事と地続きだと思っている。

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