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【Will&Nexus 12/49】「やりたいことがわからない」は、探し方が違うだけだ。

2026 2/19
Will&Nexus
2026-02-182026-02-19
Keisuke Ishino
目次

「ちょうちょが好きなんや」

中学のとき、ホームルームの時間に、クラスメートが担任に質問した。

「どうして先生は学校の先生になったんですか?」

社会科の担任は、こう答えた。

「俺はちょうちょが好きなんや」

クラス中が首を傾げた。社会の先生なのに、ちょうちょ?

「ちょうちょを仕事にしようかとも思ったんやけど、仕事って大変なことや。しんどいこともある。仕事をやってて大好きなちょうちょのことまで嫌になるのは嫌やなと思って、ちょうちょは仕事にせんかった。で、その次に興味があったし自分の中で納得できる先生になったんや」

当時の僕にとって、これは衝撃だった。

「将来の夢」と聞かれるたびに、答えがなくて居心地が悪かった。野球が好きだからプロ野球選手、花が好きだからお花屋さん。そういう直線的な答えが自分にはなかった。

でも、先生の言葉で視界が一気に広がった。「好きなこと」と「仕事」は、一直線に結ばなくてもいい。好きなことを大切にしたまま、別の形で社会と接点を持つ。そういう生き方がある。

この話は、今回の記事のテーマに直接つながっている。


「やりたいことが見つからない」という悩み

「自分が本当にやりたいことがわからない」。

キャリア相談でも、部下との面談でも、この悩みは本当に多い。自己啓発の本を読んで、ワークシートを埋めて、「自分探し」に時間を使って、でもしっくりこない。そんな人を何人も見てきた。

先生の話が教えてくれるのは、「やりたいこと=仕事にすること」ではないということだ。「やりたいこと」を「職業名」で答えようとするから、見つからない。

もっと手前にある。もっと無意識のところにある。もっと言えば、もう、やっている。


Willとは何か

僕はこのシリーズで、「意志」のことを「Will」と呼んでいる。

Willとは、止められても、やめられないことだ。

「褒められなくてもやってしまうこと」と言ってもいいけれど、もう少し強い。誰かに「やめろ」と言われても、気づいたらまたやっている。報酬がなくても、評価されなくても、勝手に手が動く。そういう行動の奥にあるエネルギーのことだ。

実は、これは僕の造語ではなく、心理学が裏付けていることでもある。

心理学者のデシとライアンが提唱した「自己決定理論」では、人間の動機づけを「内発的動機」と「外発的動機」に分けている。内発的動機とは、報酬や評価とは関係なく、行動そのものに興味や喜びを感じて動くこと。僕が言う「Will」は、この内発的動機の最も純粋な形だと考えている。

さらに脳科学の研究では、内発的に動機づけられた行動をしているとき、脳のドーパミン報酬系が活性化することがわかっている。つまり、「止められてもやめられない」のは、気合や意志の力ではなく、脳がそのように設計されているからだ。Willとは、あなたの脳が勝手に報酬を感じてしまう行動のことでもある。

大事なのは、Willは「将来の夢」や「目標」とは違うということ。

「3年後にこうなりたい」「年収をいくらにしたい」。それは目標であって、Willではない。Willはもっと根っこにある。目標を駆動している「燃料」の方だ。


僕のWill:「メカニズムを解き明かしたい」

僕自身の話をしよう。

僕は、止められても何かの「メカニズム」を探り続けてしまう人間だ。

仕事の場面ではもちろんそうだ。組織でトラブルが起きたとき、「誰が悪い」ではなく「なぜこの構造でこの問題が起きるのか」を解剖せずにはいられない。それは職務として求められる前から、勝手にやっていた。

でも、仕事以外でも同じことが起きる。

たとえば最近、VTuberの配信をよく見る。普通に楽しんで見ている。でも、気づくと「なぜこのVTuberはこんなに人気があるんだろう」「VTuberという文化がここまで広がったメカニズムは何だろう」と考えている。ゲームをやっていても、YouTubeを見ていても、裏側にある構造や法則を探っている自分がいる。

そして、面白い法則が見えてくると、今度はそれを誰かに伝えたくなる。自分の中で完結できない。「こういう仕組みだったんだよ」と話したくなる。このシリーズを書いていること自体が、まさにそれだ。

逆に言えば、メカニズムが見えてしまうと、そのテーマへの熱量は少し下がる。「わかった」と思った瞬間に、次の「わからないもの」に惹かれていく。テーマは仕事でもプライベートでも何でもいい。対象ではなく、「構造を発見する」という行為そのものが、僕のWillなのだと思う。


Willの見つけ方:「探す」のではなく「気づく」

僕のWillがわかりやすいかどうかは別として、大事なのはこの見つけ方だ。

Willは「探す」ものではない。すでにやっていることの中に「気づく」ものだ。

いくつかヒントを挙げてみる。

① 気づいたらやっていること

時間を忘れて没頭してしまうこと。予定がなくても、つい手が伸びること。それがWillのありかだ。内容は何でもいい。料理でも、分析でも、人の話を聞くことでも。「やろう」と意識しなくても自然に始まっている行動の中にこそ、Willは隠れている。

② 誰にも求められていないのに、こだわってしまうこと

仕事で、必要以上に凝ってしまう部分。「そこまでやらなくていいのに」と言われるけど、どうしても手を抜けないポイント。そこにWillがある。

③ それが「できない」ときに、妙にイライラすること

Willは、阻害されると摩擦が生まれる。「なんでこれをさせてもらえないんだ」という不満を感じる場面があるなら、その裏にWillが眠っている可能性が高い。


「借り物のWill」に気をつける

一方で、注意が必要なものがある。「借り物のWill」だ。

「親に言われたからこの仕事を選んだ」「みんなが憧れるから目指している」「上司に期待されているから頑張っている」。

これらは、自分の内側から湧いているのではなく、外から注入されたエネルギーだ。借り物のガソリンで走っている状態だ。

借り物のWillの特徴は、報酬や評価がなくなった瞬間に、エネルギーが切れること。「誰にも認めてもらえないなら、もうやる意味がない」と感じるなら、それは自分のWillではなく、他者の期待を動力にしている可能性がある。

興味深いのは、先ほどの自己決定理論の研究で「アンダーマイニング効果」という現象が発見されていることだ。もともと好きでやっていたこと(内発的動機)に対して、金銭や評価といった外部報酬を与えると、逆にやる気が下がってしまう。つまり、借り物の燃料を注入すると、本物の燃料が薄まるのだ。「頑張ったらボーナスをあげるよ」という仕組みが、時に人のWillを壊してしまうことがある。これは組織を設計する上でも、非常に重要な視点だと思う。

本物のWillは、もっと静かで、もっとしつこい。評価されなくても消えない。認められなくても勝手に燃えている。むしろ、止められるほど燃える。


Willは「正しさ」を必要としない

もう一つ、大事なことがある。

Willに「正しいかどうか」は関係ない。

「こんなことに夢中になっていて意味があるのか」「もっと生産的なことをすべきでは」。そういう声が聞こえてくることがある。でも、Willは効率や正しさの外にある。

メカニズムを探ることが僕のWillだと言ったけれど、VTuberの人気の構造を分析することが「正しい」かどうかなんて、わからない。でも、やめられない。それでいいのだと思う。

Willとは、あなたの人生の「燃料」だ。燃料の種類に正しいも間違いもない。あるのは、「それが本物かどうか」だけだ。


なぜWillを特定する必要があるのか

ここまで読んで、「自分のWillが何かはわかった。で、それがどうした?」と思うかもしれない。

答えはシンプルだ。

別の記事で、僕は「設計者」という生き方を提案した[※1]。自分を変えるのではなく、構造を書き換える側に回ろう、と。

でも、構造を書き換えるには、「何のために」書き換えるのかが必要だ。その「何のために」の答えが、Willだ。

Willが特定できていない設計者は、設計図を引くための「北極星」を持たない航海者のようなものだ。どこに向かっているのかわからないまま、構造をいじっても、迷子になるだけだ。

だから、まずはここから始めてほしい。

あなたが、止められても、やめられないことは何か。

それを一つ見つけるだけで、この先の話の受け取り方が変わる。


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この記事を書いた人

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石野 敬祐(Keisuke Ishino)
経営と人事の「かかりつけ医」/ Will&Nexus 代表

外資系コンサルからキャリアをスタートし、IT・業務改革コンサル、人事・組織コンサル、事業会社の人事責任者を経て独立。組織の問題のほとんどは領域の境界線にある——その確信から、経営・人事・業務・ITを横断しながら「センターピン(本当に倒すべき一手)」を見極める仕事をしている。

視界を失いかけた経験、長い介護の日々、自分のとらわれへの気づき——そうした経験が、見立ての精度と、誠実に関わるという姿勢をつくってきた。

趣味は一つに絞れない。歌、写真、ゲーム、麻雀、ボクササイズ……その時々の興味に引っ張られて、何がメインかは常に変わる。飽き性というより、好奇心が次の扉を先に開けてしまうタイプらしい。どんな領域でも「なぜこれはこう機能するのか」と考えてしまう癖は、仕事と地続きだと思っている。

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