Journal 思考ログ
シリーズ 構造で読む組織 手を打っても変わらないマネジメント

手を打っても、なぜ効かないのか

マネジャー候補が、なかなか育たない。期待をかけた若手が、思ったほど伸びてこない。欲しい人材がなかなか採用できない。会議の空気はいつまでも重いまま。そして、辞めてほしくなかった人が辞めていくことも。

経営・人事・管理職の側に立っていると、こういう手応えのなさが、あちこちで顔を出す。一つひとつには手を打ってきたはずなのに、ふと気づくと、似たような困りごとがまた机の上に戻ってきている。

決して、組織として何もしてこなかったわけではない。管理職研修を入れたり、評価制度も見直したり、1on1を仕組み化したりもした。そしてそれらが、まったくの空振りだったわけでもない。それでも、効果は一部であり、思ったほどには組織全体として明確に改善できた手応えが薄い。

この「手は打ってきた。それでも、思うように変わらない」という感覚を、僕は経営・人事・管理職の側に立つ人たちから、何度も聞いてきた。そして、ここには大きな誤解・見落としがひとつ潜んでいると思っている。

「手応えが薄い・ない」には、共通点がある

僕はこれまで、いろいろな組織を、外から・中からみてきた。製造業もあれば、小売業やサービス業、IT業、商社、金融、運送業などの現場もあった。地元に根ざして商いを続ける小さな会社も、誰もが知っている日本を代表する大会社もあった。最初のうちは、悩みは会社の数だけある、業種ごとに固有の事情があるように見えていた。

しかし、数を重ねて見ているうちに、ある景色が浮かび上がってきた。気づけば見てきた組織は百を超えていたけれど、うまくいっていない・対応しても手応えが薄いと訴える組織は、業種や規模の違いによらず、似た特徴を持っていた。会社の数だけ違って見えた悩みが、ある角度から見ると、同じかたちに揃って見えてくる。

その共通項は、二つある。始め方が、良くも悪くもゆるいこと。そして、うまくいかなくても、その方法に固執して続けてしまうことだ。

一つめの「始め方がゆるい」は、悪いことばかりではない。最初からきっちり分析して、いちばんの近道を見つけてから動く——それができれば理想だし、僕らのようなコンサルは、まさにそこを仕事にしている。けれど、事業会社の現場に、そこまで悠長に構える時間も余力もないことが多い。だから、まず手をつけやすいところから動く。それ自体は、責められる話ではない。むしろ自然だし、手をつけやすいところからでも、結果が出るなら、それでいい

問題は、二つめのほうだ。手応えがないのに、うまくいっていないのに、同じやり方・同じ方向で打ち続けてしまう。 ここから、効かなさが静かに長引いていく。

そして、二つの奥には、同じ一点がある。効くかどうかは、その手が”根幹”——困りごとを生んでいる根っこ——に届いているかで決まる、ということだ。届いていれば、ゆるい始め方でも結果は出る。届いていなければ、どれだけ固執して続けても、空振りが積み上がっていくだけだ。

組織がうまくいかないとき、僕たちはまず「目に見える困りごと」に目を向ける。会議が長いからファシリテーションを学ぶ。管理職が育たない、だから管理職研修を入れる。評価に不満がある社員が目立つ、だから評価制度を変える。入り口は悪くない。一見、理にかなっている。困りごとに対して、対応する施策をぶつけている。

ただ、ここに落とし穴がある。目に見える困りごとは、たいてい”結果”であって、“根幹”ではない。管理職が育たないのも、長い会議も、評価への不満も、その奥にある何かが表に出てきた症状にすぎない。症状への手当ては悪いわけではないが、本当にそれだけでいいのか? もっと奥に根幹はないのか? その見極めが弱いケースが多い印象を持っている。

同じ症状がぶり返すと、僕たちはたいてい「やり方が足りなかった」と考える。研修を増やしたり、評価制度をもっと作り込む。切り口は変えないまま、同じ方向に力を入れ直す。けれど、外しているのが”切り口そのもの”だとしたら、いくら同じ方向を磨いても、根幹には届かない。

熱が出たから解熱剤を飲む。下がる。でも病気が治っていなければ、また熱は出る。そこで「もっと強い解熱剤を」と量を増やしても、熱の出どころには手が届いていない。下手すると体に負担をかけてしまう。組織で起きているのも、これとよく似ている。


同じ症状でも、根幹は会社ごとに違う

ここが、難しいところだ。

例えば「離職が増えた」という同じ症状でも、その根幹・対応策は会社によってまるで違う。

以前、とある公共案件で同時に10数社の中小企業の定着支援コンサルティングを行ったことがある。どの企業も、若手社員の離職が多いことに困っている企業たちだった。業種は様々で、製造業、小売業、運送業、自動車販売業、農業法人など。上場企業の関連会社で数百名規模の会社もあれば、30名足らずの企業も。

それらの企業に共通した従業員エンゲージメントサーベイを行って、どのあたりが根幹なのか分析・比較してみた。結果的に、業種や規模によらず共通している点、同じ業種・規模でも傾向が違うということが明確になった。

業種や規模によらず共通しているのは、給与・賞与が低いことそのものがそのまま離職につながるわけではなさそうということだった。

業種、規模など共通項のある企業たちで比べてみても、ある企業では評価の不透明感・一貫性がないことに対する不満の影響が一番大きいという分析結果になり、別の企業では業務が特定の人・立場の人に偏ったことによる負担の影響が大きいとわかり、とある企業では、会社の方向性がわからないことに漠然とした不安を持っている社員が多いことが効いていそうだった。

これらの事例からも、症状が同じだからといって、同じ根幹だとは限らない。同じ業種だから、同じ規模だから同じ打ち手が効くとは限らない。離職に効くのは「定着策」という名前の施策ではなく、その会社の離職を生んでいる”根幹”に届く一手だ。

ここで、根幹をボウリングのセンターピンに見立ててみてほしい。先頭の一本に正しく当たれば、後ろのピンまで連鎖して倒れる。逆に、横のピンをどれだけ正確に狙っても、センターピンが立ったままなら、なかなか総崩れにはならない。組織も同じで、根幹に当たった一手は、ほかの困りごとまで連鎖して動かす。根幹を外した手は、いくら数を打っても、その周りを削るだけで終わる。

ところが、世の中で目立ってしまうのは打ち手だ。今の例で言えば、人事制度改定でも管理職研修でも、離職対策になり得るのは間違いない。ただ、それが根幹に繋がっていて初めて、離職対策になる。厄介なことに根幹を外した打ち手ほど、手応えがないぶん「もっとやらなきゃ」という気持ちを呼ぶ。効かないから施策を足す。足しても効かないからまた同じ方向で変える。気づけば現場は対応で埋め尽くされ、余力を減らす。結果が出そうならばいい。手応えもないのに進める対応は、徒労感を生み、さらなる悪循環を生む場合すらあるのだ。

「どこが根幹か」を、施策の手前で見立てる

では、どうするか。

僕がいちばん大事にしているのは、施策を選ぶ前に「この組織の根幹はどこか」を見立てる、という一手間だ。打ち手を考えるより先に、「いま表に出ている困りごとは、どの根幹から来ているのか」を見にいく。

これは特別な道具がいる話ではない。コンサルタントなら、ごく当たり前にやっているお作法でもある。

ただ、正直に言うと、この「まず見立てる」は、現場ではしばしば後回しにされる。頭で考えてばかりのお勉強に見えて煙たがられることもあるし、僕自身、事業会社の中で実務を回していたときは、悠長に根幹を見立てるより先に、とりあえず動くことを優先していた時期がある。時間も余力もないなかで、それはそれで分かる。

それでも振り返ると、急がば回れ、なのだ。先に見立ててから動いたほうが、結局は効率的・効果的なことが多い。アプローチの順番を変えるだけで、見えるものがずいぶん変わる。

たとえば目の前に「若手の離職」という症状があったとき。すぐに症状を裏返して「では定着策を」とすすめない。代わりに、一度立ち止まって、こう問う。「辞める人・辞めた人は、何が辞めたいと思う引き金になったのか」「何がどうなっていれば辞めない・辞めなかった未来があるのか」「特定の人でなく複数の人に共通するメッセージはあるか」など、望ましくない結果を引き起こす共通項となる根幹がどういうところにあるか、という観点だ。

そして奇しくもその本当の根幹に効くアプローチができると、他の問題も自然と解消されることも起こる。離職対策をしていたつもりが、組織の雰囲気がよくなるとか、管理職の負荷が下がるとか。先ほどのセンターピンが、後ろのピンまで連鎖して倒すのと同じだ。

もちろん、見立てが毎回ぴたりと当たるわけではない。根幹は一つとは限らないし、見立てた先がさらに別の根幹に繋がっていることもある。見立てるための前提となる事実を見逃している・持っていなかったということもある。だから「これが正解だ」と言い切る話ではない。ただ、症状から打ち手へ直行するのをやめて、あいだに”根幹を見立てる”という一手間を挟む。それだけで空振りの数は確実に減るし、何より仮説を持って対応している以上、外した時でも軌道修正をしやすくなる。

手を打っても変わらないとき、足りないのはたいてい新しい施策ではない。いま打っている手が、本当に根幹に当たっているのか――それを一度、立ち止まって見にいくことのほうだ。

組織は、変わらないのではない。根幹に触れていないところを、何度も叩いているだけかもしれない。

あなたの周りにも、手応えがないのに続けていることは、ないだろうか。その手は、本当に根幹に当たっているだろうか。

そう考えると、いつも思う。打ち手を探すより先に、いちばん奥のセンターピンを探しにいく方が、結局は近道なのだ。

*うまく手応えの出ない組織のことなら、力になれるかもしれません。相談はこちらから。