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【Will&Nexus 23/49】「自分でやった方が早い」は、最も高くつく判断だ。

2026 2/19
Will&Nexus
2026-02-182026-02-19
Keisuke Ishino
目次

「自分でやった方が早い」という罠

マネージャーや中堅層に共通する口癖がある。

「自分でやった方が早い」。

気持ちはわかる。教える時間がもったいない。任せると品質が落ちる。結局、自分で手直しすることになる。だったら最初から自分でやった方が効率的だ。

短期的には、確かにそうだ。

でも、これは記事19[※1]で書いた「焼き畑」と同じ構造だ[※1]。今日の効率を取ることで、明日の効率を犠牲にしている。

「自分でやった方が早い」を続けると、何が起きるか。

自分のリソースが永遠に埋まり続ける。チームは育たない。自分が倒れた瞬間に、すべてが止まる。そして、自分にしかできない本当に価値のある仕事——戦略を考える、新しいアイデアを生む、大事な判断をする——に使う時間がなくなる。


二つの領域を分ける

ここで、自分の仕事を二つの領域に分けてみてほしい。

① 「誰でも同じ結果が出る」仕事

定型作業。ルーティン。手順が決まっていて、その通りにやれば誰がやっても同じ品質になる仕事。報告書のフォーマット作成。データの集計。定例会議の議事録。

② 「自分ならでは」の仕事

自分の経験、判断力、直感、人間関係によって、結果が大きく変わる仕事。重要な交渉。チームの方向性を決める判断。困っている部下との対話。新しいアプローチの発案。

この二つの境界線は人によって違うし、スキルが上がるにつれて変わる。でも、多くの人が①に時間を取られすぎていて、②に十分な時間を使えていない。


仕組み化は「コストカット」ではない

「①を仕組みに任せよう」と言うと、「効率化」「コストカット」のイメージが浮かぶかもしれない。

でも、ここで言いたいのは違う話だ。

①を仕組みに任せるのは、②に集中するための「投資」だ。

コストカットは「出ていくものを減らす」発想。投資は「入ってくるものを増やす」発想。

「誰でもできる仕事」を仕組み化するのは、自分を楽にするためではない。自分を「代えのきかない価値」に集中させるためだ。

自分の時間は有限だ[※2]。その有限な時間を、どこに配分するか。これは、設計者にとって最も重要な「資源配分の設計」だ。


「自分のキャラ」を出す余白

もう一つ、大事な視点がある。

仕組み化によって生まれた時間は、自分のキャラクターを出すための余白になる。

記事17[※3]で書いた「信頼の複利」[※3]を思い出してほしい。信頼は「あの人ならではの価値」から生まれる。定型作業を完璧にこなすことからは、信頼は生まれにくい。

「あの人に相談すると、思ってもみなかった視点をもらえる」「あの人がチームにいると、雰囲気が変わる」「あの人の判断は、いつも的確だ」。

こうした「自分ならでは」の価値は、余白がなければ発揮できない。定型作業に追われて一日が終わる生活では、自分のキャラクターを出す隙間がない。

仕組みが「誰でもできること」を引き受けてくれるから、自分は「自分にしかできないこと」に力を注げる。 それが、戦略的ROI(投資対効果)の本質だ。


手放した瞬間に、見えた景色

僕自身、「自分でやった方が早い」の罠にはまっていた時期がある。

転職で事業会社に移ったとき、自分にとって未知の領域を複数同時に任された。損害保険、オートローン、業務システム——どれも自分の専門外だった。最初は、全部を自分で理解しようとした。資料を読み込み、会議に出て、一つひとつキャッチアップしようとした。

でも、すぐに限界が来た。一人で全領域をカバーするのは物理的に無理だった。何より、各領域にはすでに経験豊富なメンバーがいた。彼らの方が、僕より遥かに詳しい。

ある時点で、「全部自分で把握する」を手放した。各領域の判断はメンバーに委ね、自分は全体の方向性を揃えることに集中した。

最初は怖かった。「自分が詳細を知らないまま判断していいのか」という不安があった。でも実際には、メンバーに任せた方が各領域の精度は上がった。そして僕は、領域横断の設計——本来自分がやるべき仕事——にようやく時間を使えるようになった。

「自分でやった方が早い」は、今日の効率の話だ。「任せて余白を作る」は、明日の価値の話だ。 そして多くの場合、任せた方が「今日の精度」も上がる。


「誰でもできる仕事」への敬意

ただし、ここで大事なことがある。

「誰でもできる仕事」を軽視してはいけない。

定型作業が正確に回ることは、組織にとって欠かせないインフラだ。目立たないが、なくなると全体が止まる。

仕組み化とは、その仕事の価値を認めた上で、「人がやるべき仕事か、仕組みが担うべき仕事か」を設計し直すことだ。

人にしかできない判断、感情、創造性が求められる仕事は、人がやる。手順が明確で再現性がある仕事は、仕組みが担う。

これは「人を減らす」話ではない。人を「人にしかできないこと」に集中させる話だ。

記事05[※4]のペンギンと飛行機の話と同じ構造だ[※4]。苦手なことを気合でカバーするのではなく、仕組みで補う。


まず一つ、手放してみる

最後に、実践的な提案を一つ。

今週の自分の仕事の中で、「手順を書けば、他の人でもできそうなこと」を一つ見つけてほしい。

見つけたら、実際に手順を書いてみる。そして、誰かに任せてみる。あるいは、ツールで自動化してみる。

手放した時間で、何をするか。「自分にしかできないこと」をやる。

その一つの積み重ねが、設計者としてのROIを確実に上げていく。


関連記事

  • [※1] 【Will&Nexus 19/49】「焼き畑」の代償を、あなたは計算しているか。
  • [※2] 【Will&Nexus 01/49】「自分を後回し」にしていませんか。
  • [※3] 【Will&Nexus 17/49】「割に合わない」と感じたら、交換しているものを数え直せ。
  • [※4] 【Will&Nexus 05/49】ペンギンは、空を飛ばなくていい。
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この記事を書いた人

Keisuke Ishinoのアバター Keisuke Ishino

石野 敬祐(Keisuke Ishino)
経営と人事の「かかりつけ医」/ Will&Nexus 代表

外資系コンサルからキャリアをスタートし、IT・業務改革コンサル、人事・組織コンサル、事業会社の人事責任者を経て独立。組織の問題のほとんどは領域の境界線にある——その確信から、経営・人事・業務・ITを横断しながら「センターピン(本当に倒すべき一手)」を見極める仕事をしている。

視界を失いかけた経験、長い介護の日々、自分のとらわれへの気づき——そうした経験が、見立ての精度と、誠実に関わるという姿勢をつくってきた。

趣味は一つに絞れない。歌、写真、ゲーム、麻雀、ボクササイズ……その時々の興味に引っ張られて、何がメインかは常に変わる。飽き性というより、好奇心が次の扉を先に開けてしまうタイプらしい。どんな領域でも「なぜこれはこう機能するのか」と考えてしまう癖は、仕事と地続きだと思っている。

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