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【Will&Nexus 13/49】人生のハンドルを、誰に預けていますか。

2026 2/19
Will&Nexus
2026-02-182026-02-19
Keisuke Ishino
目次

「ただ立っているだけで金をもらう男」

こんな話を想像してみてほしい。

ある男が、毎日ある場所に立っている。何もしなくていい。ただ立っているだけで、月末に給料が振り込まれる。楽な仕事だ。多くの人は「うらやましい」と思うかもしれない。

でも、この男は一つだけ自由を失っている。

どこに立つかを、自分で選べない。

立つ場所は誰かが決める。暑い日も寒い日も、雨の日も、指定された場所に立ち続ける。行きたい場所があっても行けない。やりたいことがあっても動けない。対価として安定を得ているけれど、自分の人生のルートを選ぶ権利は、手放している。

これは極端な例だけれど、実は多くの人が似たような状態にあるのではないだろうか。


ハンドルを預けている人の特徴

「会社がこうしてくれない」「上司が変わってくれない」「制度が悪い」。

こうした不満を口にすること自体は悪くない。構造に問題があるなら、それを指摘することは大事だ。このシリーズでもずっとそう書いてきた。

でも、「だから自分は動けない」「だから仕方がない」という結論になるなら、それはハンドルを他人に預けている状態だ。

ハンドルを預けている人には、共通する感覚がある。

乗り物酔いだ。

車に乗っていて、助手席に座っているときの方が酔いやすい。これは、自分が次の動きを予測できないからだ。運転手は「次に右に曲がる」とわかっているから酔わない。でも、助手席の人は急に曲がられると身体が追いつかない。

組織でも同じことが起きている。自分で判断していない、自分で選んでいない。だから、予測できない変化に振り回されて「酔う」。その酔いが、不満や疲弊として現れる。


「責任」の本当の意味

ここで多くの人が引っかかるのが、「責任」という言葉だ。

「ハンドルを握れ」と聞くと、「もっと責任を持て」という説教に聞こえるかもしれない。責任=重荷、責任=プレッシャー。そういうイメージがある。

でも、ここで言う責任とは、あくまで自分の人生に対する責任のことだ。

自分で選んだ道の結果を、良いものも悪いものも、自分で引き受ける。うまくいったら自分の手柄、うまくいかなかったら誰かのせい。そういう都合のいい切り分けをしない。自分が選んだのだから、その結果は自分のものだと受け止める。

これは「すべてを背負い込め」という話ではない。組織の構造に問題があるなら、それは構造の問題だ。このシリーズでもそう書いてきた。でも、その構造に対して「自分がどう動くか」を選ぶのは、自分自身だ。

ハンドルを握っている人間は、右に曲がることも左に曲がることもできる。そして、右に曲がった結果がどうであれ、「自分が選んだ」という事実を引き受けられる。

一方、ハンドルを預けた人間は、連れていかれた先に文句を言うことしかできない。楽かもしれないけれど、その不満は何も変えない。

責任を引き受けるとは、自分の選択の結果から逃げないことだ。そしてそれは、重荷ではなく、次の一手を打てるようになるための土台だ。


「辞める」もハンドルを握ることだ

僕自身、ハンドルを握るということを何度か選んできた。

ある会社で自分なりに力を注いでいたとき、途中で方針が変わり、やりたかったことが続けにくい状況になった。残る道もあったが、どの選択肢も自分が納得できるものではなかった。

ちょうどそのタイミングで、家庭の事情も重なった。

普通なら「会社の事情」と「家の事情」の板挟みで身動きが取れなくなるところだと思う。でも、僕は退職を選んだ。会社に期待しなかったわけではない。やりたいこともあった。でも、自分の人生で今何を優先するかを自分で決めた。

振り返れば、あの決断は「逃げた」のではなく「選んだ」のだと思える。結果がどうであれ、自分で選んだという感覚があると、後悔が少ない。


「会社に期待しない」では、まだ足りない

最近、「会社に期待しない」という考え方がよく聞かれるようになった。

それ自体は健全だと思う。会社に過度に依存し、会社に人生を預けてしまうことの危うさに気づいている。

でも、「期待しない」だけでは半分だ。

期待しないことで失望は減る。でも、それは「助手席に座ったまま、運転手に文句を言わなくなった」だけだ。酔いは減るかもしれないが、自分の行きたい場所には依然として向かっていない。

大事なのは、期待しないことの先にある「自分で選ぶ」というステップだ。

会社がこうしてくれないなら、自分でその構造を変えにいく。変えられないなら、別の場所に移る。それも無理なら、今の場所で自分にできる範囲のハンドルを握り直す。

どれを選んでもいい。大事なのは、「自分が選んだ」という感覚を持つことだ。


選択を引き受けると、世界が変わる

ハンドルを握ると何が変わるか。

一番大きいのは、結果の受け取り方が変わることだ。

誰かに言われて選んだ道がうまくいかなかったとき、人は「あいつのせいだ」と思う。それは当然だ。自分で選んでいないのだから。でも、その怒りは何も生まない。怒りのエネルギーは、ただ摩擦として消えていく。

一方、自分で選んだ道がうまくいかなかったとき、人は「次はどうしよう」と考える。自分で選んだからこそ、結果を引き受けられる。引き受けられるからこそ、次の一手を考えることができる。

失敗が「誰かのせい」から「次の設計のためのデータ」に変わる。

これは、別の記事で触れている「バグ報告」の考え方[※1]と同じだ。自分がハンドルを握っていれば、うまくいかないことも「自分のシステムからのフィードバック」として受け取れる。


ハンドルを握るとは、全部を一人でやることではない

一つ、誤解されやすいことがある。

「ハンドルを握る」というのは、「全部を一人でやる」ということではない。

むしろ逆だ。ハンドルを握っているからこそ、「ここは自分でやる」「ここは人に任せる」「ここは仕組みに頼る」という判断ができる。それは「飛行機の造り方」と同じ話だ[※2]。

ハンドルを握ることの本質は、「選択する主体が自分である」という状態を保つことだ。

何をやるかを選ぶ。誰に任せるかを選ぶ。どこに向かうかを選ぶ。その選択の主語が「自分」であること。それだけでいい。


あなたのハンドルは、今どこにありますか

最後に、一つだけ問いかけたい。

あなたは今、人生のハンドルを握っていますか。

「会社がこう言うから」「上司がこう望むから」「みんながそうしているから」。そういう理由で動いているなら、ハンドルは他の誰かの手にある。

もちろん、組織の中で生きている以上、すべてを自分の思い通りにはできない。それは当たり前だ。でも、「思い通りにできないこと」と「自分で選んでいないこと」は違う。

制約がある中でも、「この制約の中で、自分はこれを選ぶ」と決められるなら、ハンドルはあなたの手にある。

責任は重荷ではない。自分の選択の結果を引き受けることで、次の一手を打てるようになる力だ。

そのハンドルを、今日、少しだけ自分の方に引き寄せてみてほしい。


関連記事

  • [※1] 【Will&Nexus 02/49】「わかっているのに動けない」は、あなたのせいじゃない。
  • [※2] 【Will&Nexus 18/49】努力の「向き」が間違っている。
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この記事を書いた人

Keisuke Ishinoのアバター Keisuke Ishino

石野 敬祐(Keisuke Ishino)
経営と人事の「かかりつけ医」/ Will&Nexus 代表

外資系コンサルからキャリアをスタートし、IT・業務改革コンサル、人事・組織コンサル、事業会社の人事責任者を経て独立。組織の問題のほとんどは領域の境界線にある——その確信から、経営・人事・業務・ITを横断しながら「センターピン(本当に倒すべき一手)」を見極める仕事をしている。

視界を失いかけた経験、長い介護の日々、自分のとらわれへの気づき——そうした経験が、見立ての精度と、誠実に関わるという姿勢をつくってきた。

趣味は一つに絞れない。歌、写真、ゲーム、麻雀、ボクササイズ……その時々の興味に引っ張られて、何がメインかは常に変わる。飽き性というより、好奇心が次の扉を先に開けてしまうタイプらしい。どんな領域でも「なぜこれはこう機能するのか」と考えてしまう癖は、仕事と地続きだと思っている。

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